アイリッシュ・ミュージックに於けるギター(チューニング編)

ギターというのは完璧なチューニングをすることが非常に難しい楽器だ。では完璧なチューニングとは?

僕らは(僕と希花)チューニング・メーターというものを使わない。フィドルとギターが合っていればいい、という考え方だ。

彼女が442を出す。曰く、その日のコンディションで微妙な“違い”があるそうだ。そこに合わせる。

そしてギターに於いては、それぞれの弦の音程よりも、全体のバランスを整える。そのため、自分が使うギターの“くせ”というものは熟知していなくてはならない。

いつも思うがDADGADのチューニング方法では2弦の5フレット目と(D)と1弦の開放(D)の関係が非常に微妙だ。

それと3弦2フレット目の(A)と2弦開放の(A)そしてこれをクリアしてもカポタストを2フレット目にして弾くとすでに微妙な“ずれ”が生じている。

これはなにもこのチューニングに限って言えることではないが、特にこのようなほとんどオープン・チューニングと言えるものでは顕著に現れる。

僕は自分のギターの、6弦と2弦の“くせ”を把握しておく。6弦は重要だ。キーが変わって開放から7フレット目にカポを着けた場合、その距離は相当なものになる。

もちろん、曲によっては開放のままのAポジションのほうが曲の持っているニュアンス、そしてその曲のメロディーの進行状況に適している場合もあるが。

アンドリュー・マクナマラと初めて演奏した時から、次に出てくる曲のキーだけを直前に叫んでもらい、それに合わせてカポを移動する。

その時に“くるい”が生じていたら1秒以内に直す。まず6弦を直し、曲を把握しながら他の弦も直していく。これが大変だが、決して糸巻きで直していくばかりではない。右手でピッキングしながら特定の弦を抑えたりしているのだ。

気が付いている人もあまりいないだろうが、実に巧妙に細かい調整をしている。問題はまた元のキーに戻った時、それらの調整でバラつきが出ていないかということだ。そこも考慮に入れてチューニングをする。

それはレコーディング・エンジニアですらも気が付かないほどの巧妙さだ、と言えるだろう。

事実、ジョディース・ヘブンのレコーディングの時でもかなりの曲でカポタストを移動させ、調整しながら弾いていた。

因みにその時のエンジニアは、ウイリアム・コルターというサンタ・クルーズ・エリアきっての美しいギタープレイを聴かせるギタリストだったが、全てのレコーディングが終えた後、ネタばらしをすると、彼は本当に驚いていた。全く気が付かなかったそうだ。

なにはともあれ、ずいぶん前は僕もチューニング・メーターなるものを使っていたが、結局そんなものに合わせるよりは、微妙に違うその時の弦のコンディションだったり、体調だったり、その楽器の特性だったりに合わせた方が良かったりするものだ。それに、長いこと弾いていると、大体、弦の張り具合でも分かるものだ。

後はその時一緒にやる人と合わせればいいだろう。

それでも、ケースから出してすぐに弾ける、アコーディオンやコンサルティーナはいいなぁ。ハーモニカもだ。