「アー ユー オープン?」第4話 ヴィンさん

もうひとりベトナム人のお話し。

 やはり50代半ばの彼は唯一の楽しみが“宝クジ”。毎週2回ある当選者番号の発表時間が迫るとそわそわしてくる。

 それは午後8時だ。5分ほど前になると「さぁ、写真を撮ってくれ」と言って、天ぷら鍋の前、エビを高々と菜箸で持ち上げ、腰に手を当て、胸を張ってポーズを取る。そしてこう言うのだ。

「ノーモアてんぷら!さよならレストラン」それから、ポケットに入っていた宝クジを握りしめ、全神経をラジオに集中させる。

 だが、数分後にはうなだれていつものようにてんぷらを揚げる彼の姿がそこにある。愛すべき人だ。

彼は言う。「私は子供4人と女房を連れて、横になるスペースも無いボートに乗ってきた。それはそれはきつかった。私たちは、弱って死んでいった奴を海に放り投げた。できることはそれしかなかったんだ。だんだん人が減っていって、やっとスペースが出来た頃、フィリピンに着いた。あの戦争で全てを失ったけど、幸いにも一番大事なもの“家族”だけはかろうじて残った。ひどい経験だったけど、私はこう思うんだ。戦争は悪いことと決まっている。それは誰もが知っていることだ。でも、時として戦争というものは民族にパワーを与えることになる。日本人からは民族の結束が感じられないし、なんとしても生き抜くだけのパワーも感じ取ることができない。車や電化製品は素晴らしいけど。

ベトナムではああして戦争が起きて、おせっかいなアメリカが首を突っ込んできてあんなことになったけど、おかげで私たちはなにものにも屈しない精神を持つことになった。

 それと、もうひとつ。本当に大切なのは教育だ。教育さえちゃんと行き届いていれば、もしかしたら戦争じゃなく、もっと他の方法で民族の真のパワーを示すことができるかも知れないんだ。私はこれから学校に通って勉強しようと思っている。いくつになっても勉強はしなくちゃぁな」

 ヴィンさん、当分宝クジは当たりそうにないが、それでもそれなりの幸せは自らの手で勝ち取っている人だ。