New CD Coming Soon #2

もう一つはチェロのAlec Brownとのトリオのアルバムです。

多くの人がもうご存知だと思いますが、ひょんなことから希花さんがFacebookで見つけたアイルランド在住のチェリスト。

アイルランド音楽にも精通していて、元々アメリカはアーカンソー州の出身ということもあり、オールドタイム、ブルーグラスにも普通に反応する、という僕らにとっては持って来いの男でした。

その上、譜面台は決して置かない、という僕と共通した考えを持っていました。

勿論、僕と希花さんは一切譜面台というものは置きません。それがあって、そこに眼を落した瞬間にもはやトラッドミュージシャンとは言えないのです。

彼との共通点は僕らが最も大切に思っているところでもあったので、まだまだやり始めたところだし、離れているのでしょっちゅう一緒に出来るわけではないけど、多くの人が「CDは?」と訊ねてくれたこともあり、今回彼を呼んで作りました。

チェロが入った肉厚なサウンドは、きっと皆さんに気に入っていただけると思います。

こちらの方もライナーの補足をここでさせてもらいます。

  1. ★ Farewell to Trion 

トラッドとも言えるチューンですが、アラバマのMick Blaylockが彼のおじさんにあたるJoe Blaylockの作品として発表したようです。おじさんが出稼ぎに出掛けた先、ジョージア州のTrionから故郷のアラバマに戻ってくるときに書いた、ということですが、そこに3パート目を付けたのがJames Bryanと言われています。彼は以前、Norman & Nancy Blakeと演奏していたと思います。

2 ★ Crabs in the Skillet / The Cock and the Hen

1曲目はTara Breenの演奏で覚えたものですが、例によって様々なバージョンがあるようです。70年代にHorslipsも演奏していたものですがなんともエキサイティングな曲で、特に3パート目はチェロを入れて良かった、と思えるものです。

2曲目は18世紀頃からある曲だと言われていますが、とても現代的なメロディです。別なタイトルとしてはDoodley Doodley Dank或いはJoe Ryan’s或いはCathal McConnell’sなどがあるようです。

3 ★ Night in that Land

Johnny Cunningham作のこの美しいワルツは僕らの以前のアルバムThrough the Woodに続いて2回目の録音ですが、やはりチェロの果たす役割は大きいと云えます。

Johnnyとは一度だけステージを共にしたことがありますが、リハーサルの時から、とても優しい穏やかな人で、ひとたびフィドルを持つと、まるで子供がおもちゃをいじるように軽々と笑いながら強烈なスコティッシュ・スタイルを披露しました。

ちょっと体が悪そうだったのですが、間もなくして彼の訃報が入り、そのトリビュート・コンサートには僕もニュー・ヨークまで出かけて行きました。名曲です。

4 ★ Sandy Boys

バンジョー奏者Lucas Pooleの演奏から学んだものですが、まるでClinch Mt. Back Stepのようなメロディを持った曲です。出処はわかりません。僕はLucasのプレイに習って、4弦をGまで下げています。それがこの曲の特徴でもあります。

5 ★ Maple Tree

70年代から80年代にかけてヨーロッパで大活躍していたバンド、Blowzabellaのアルバムから学んだ曲です。ポーランド発祥のマズルカというリズムで演奏されるこの曲を書いたのはメンバーの中のJon SwayneとJo Freyaです。なんとも素晴らしいメロディの曲ですが僕らはオクターブマンドリンのイントロを付けチェロにも活躍してもらっていいアレンジになったと思います。

6 ★Green Fields of Glentown / Jerusalem Ridge

Tommy Peoplesの作になる名曲からBill Monroeのあまりにも有名な曲。どちらもフィドルチューンとしてフィドラーには必須の曲かと思いますが、どちらもかなり難しいものだと思われます。よくアイリッシュとブルーグラスの共通点が取り沙汰されるのですが、この似て非なるものを合わせるのは至難の技だと感じます。実際アイリッシュのフィドラーがJerusalem Ridgeを弾くのは聴いたことがありますが今一つピンと来ないものがあり、またGlentownを弾くブルーグラスフィドラーには未だ出会ったことがありません。これだけ違うフィドルチューンをメドレーで合わせることが出来るのも希花さんのスリリングなフィドル奏法と、アーカンソーとアイルランドを股にかけているアレックと、ブルーグラスとアイリッシュをとことん経験している僕との3人による独特な世界かもしれません。

7 ★Margaret’s / Amelia’s

Pat Shuldham作の美しいワルツは僕自身Aly Bainの曲だと思っていたくらい、彼の演奏が印象に残っています。2曲目は1980年頃にピアニスト兼フィドラーのBob McQuillenによって書かれたメロディです。Amelia Stilesなる人物に捧げた曲ということですが、このAmeliaはもともとAmelia Earhartの名前から取ったものらしい。Amelia Earhartについてはブルーグラス人間もよく知るところです。なので、とてもこの曲に親近感を覚えてしまうのです。

8 ★Joe Coleman’s March

1847年、靴職人でフィドラーのJoe Colemanは妻殺しの罪をきせられ、絞首刑になりました。実際の処は分からなかったようですが、当時はなにもかも適当だったのでしょうか。どこまでも冤罪のようでしたが、彼が刑場に向かう馬車の荷台で、自分の棺桶の横に座り、最後のフィドルを弾いた、と云われています。そのストーリーを誰かがフィドルチューンにしました。作者は分かりませんが、実にその光景が浮かんでくるような曲です。

僕等のアレンジでは、最後にJoe Coleman のフィドルの音が遠ざかっていく光景を表しています。

9 ★ Leaving Brittany / Horizonto

再びJohnny Cunningham作のこれも美しい曲。この人の書くメロディはどこか優しさに溢れているような感じがします。2曲目はこれもBlowzabellaからの選曲。Paul Jamesというこのバンドのパイパーが書いた曲です。とてもエキサイティングな名曲だと思います。

この2曲はアレックを呼んですぐに演奏する、と決めていたものです。アイルランドでもステージやラジオなど様々なところで演奏しました。必ずうけるメドレーです。

10 ★ Tribute to Peadar O’Donelle

かなり前にムービングハーツの演奏で聴いたもので、パイプの印象的なメロディをずっと覚えていて、何気なしによくギターで弾いていたものを今回録音してみました。

この曲はドブロのジェリー・ダグラスもやっていて、何故か今はそちらの方が良く知られているようでムービングハーツや、恐らく作者であろうドーナル・ラニーの名前が検索しても出てこない、という不思議なものです。

11  ★ Planxty Dermot Grogan / Big Country / Johnson Boy

この3曲はなかなかに繋がりのいいメドレーになったと思います。最初の曲はハープによって書かれたもの。2曲目はベラ・フレックのとてもシンプルで美しい曲。3曲目はその昔、ニッティ・グリッティ・ダート・バンドのジョン・マキューエンのやっていたものですが、それよりも先にデヴィッド・リンドレーがバンジョーでやっていたものも聴いたことがあります。二人ともトパンガ渓谷のバンジョーコンテストの常連ということなので、どこかで繋がっていたのだろうと思います。

最後に少し間を置いて2曲のブルースを一発で録音してみました。

In the Pines / Police Dog Bluesの2曲です。

アレックと飲みながら(実際には飲んでいない)鼻歌を歌う、という感じで最初の曲を。そして僕のギターソロで締めくくりました。これは1981年東芝EMIからリリースした僕のアルバムの中にも収録されています。当時はライ・クーダーの演奏から学んだものでした。