お辞儀

普段から気になっている事柄のひとつに、日本人のお辞儀という文化がある。

何が気になっているかと云うと、昔、といっても30年ほど前、友人に頼まれてデパートの特設会場になにかを買いに行くことになった時の話。

開店前から並ばなくてはいけなくて、開店と同時に中に入ると店員さんが全員深々と頭を下げてお辞儀をしているではないか。

それを見て見ぬふりをして通り過ぎることは出来ない。「あ、どうも…」と云いながら、早く行かないと物が無くなる、と友人に言われていたので、勢いよくエスカレーターを駆け上がるとそこには2階の店員さんが全員そろって頭を下げているではないか。

僕はまたゆっくり歩いて「あ、どうも…」と云いながら平静を装った。

彼等にひととおり挨拶をしてまたエスカレーターを駆け上がると、今度は3階で同じ光景が繰り広げられる。

会場は8階だ。

結局僕は全ての階で平静を装って頭を下げ、何食わぬ顔をしてエスカレーターを駆け上がる、という変なおじさんを演じていた。

開店前から一緒にたむろしていたばあさんたちと、同じエレベーターに乗るべきだっただろうか。

とに角、今でも開店直後のデパートなどでは店員さんは皆、お辞儀をしている。あれって1分位?

駅直結のデパートなんかだと通り抜ける人もいるだろうし、せっかくお辞儀をしている人を無視して通るのもなぁ…と思ってしまう。

新幹線もそうだ。売り子さんや車掌さんも車両に入る時、そして出る時には必ずお辞儀をしている。

あれを見ると申し訳なくて、こちらも座ったまま頭を下げてしまう。

出来そこないの人間ばかりの政治家のようにふんぞり返っていることは到底できない。

それに街の眼鏡屋さん。

買い物を済ませ、店を出ていくお客さんが見えなくなるまで深々とお辞儀をしている。その前を沢山の人が通り過ぎていく。

あれって必要なんだろうか?

ずっと前に中国人のおばちゃんに言われた「日本人はみっともない。しょっちゅうペコペコして頭を下げている」

だが、最近、フランスに住む日本人の友人が言っていた。

「フランスじゃ日本人がお辞儀をするのと同じ感覚で誰もかれもがキスしている。あれじゃぁ感染は避けられないわ!」

なるほど。お辞儀も捨てたもんじゃない。