2011年 アイルランドの旅 ~フィークル その1~

今日から4日間、カウンティ・クレア フィークルだ。勿論ドゥーランも同じカウンティなので比較的近い。

途中、モハーの断崖を通るが、もの凄い霧と強風で何も見えない。こんな時には絶対に近寄りたくないところだ。くわばら、くわばら。

エニスタイモンを通過する時、自然と”Humours of Ennistymon”をくちずさんでしまう。

フィークルでは、以前からの知り合いであるギタリストのマイケル・ランダースの家に泊めてもらうことにした。

彼の家はB&Bも兼ねているので、いろんなところからこのフィークルめがけて、人々がやってきている。

この水曜日から日曜日まで、フィークル・トラディショナル・ミュージック・フェスティヴァルがあるからだ。

それは、ぼくらにとっても大きな目的のひとつである。

家に入るとすぐにバンジョーの音が聴こえてきた。聞くところによると、イギリスから来ている人が練習しているらしい。ご機嫌なジグのリズムだ。

しかし、ゆっくりしている暇はない。早速会場に出かける。

フィークルも小さな町だ。やはり村落というべきか。そこに3つか4つほどのパブがあり、そのどこでも良質なセッションが繰り広げられる。

時間など関係ない。好きなセッションに飛び込んでいってもいいし、やっていなければ自分たちではじめればいいのだ。

まずはペパーズに行く。いちばんはずれにある(逆からくれば町の入り口か)それでもここでは一番大きな、そして名高いパブだ。

入って行くと、見た顔がいた。次の瞬間、彼が大声で叫んだ。「じゅんじ!」ケヴィン・クロフォードだ。

そういえば、彼のワークショップが午前中にあったのだ。

彼はいつでも、誰に対しても、とてもフレンドリーだ。今日はもう次の土地が彼をまっているらしい。少しだけ立ち話をして別れた。

時間はまだ早いのでセッションはやっていない。では始めてしまおう。フィドルとギターを出してチューニングを始める。

東洋から来た親子らしきふたりを人々が興味深げに見ている。

曲を始めると、どこからともなく沸いて来るように大勢のひとが集まって来る。そしてそれぞれに楽器を出し、だんだんおおきなセッションになっていく。

ドゥーランで一緒だった親子も来た。腕はみんな確かだ。こうなったら止まらない。次から次へと、知っている曲、知らない曲、聞いたことがある曲が飛び出してくる。

知っている曲は注意深く相手の音を聴きながら合わせていき、知らない曲にはじっと耳を傾ける。

この辺の人は、生まれてからずっとそうしてきているのだろう。

2時間ほどペパーズでセッションをリードした僕らは、みんなに挨拶して店を出た。何か食べなくてはならないが、ゆっくり座って食べている時間が惜しい。ケータリングのトラックがいるので、ホットドッグやポテトでいいだろう。ギネスは店で注文して、外に持ってくればいい。

ここで結構はまるのが、いわゆる日本で言うフライドポテトにカレーをかけたやつ。僕はいいアイデァだと思うが。しかし、もうすでに飲んでいるわ、疲れているわ、次のセッションに気は急いているわで、味なんてどうでもいい。でもそんな状態だから、なおさら美味しく感じるのかもしれない。カロリーのことを考えるのなら、絶対に食べないほうが良いものがここには一杯だ。

腹ごしらえを終え、次の場所へ。

途中でパット・オコーナーと出会った。彼と初めて出会ったのは今から約14~5年前だったと記憶している。

アンドリュー・マクナマラとロハウンズの一員としてアメリカに来ていた彼が、一週間くらい家に泊まっていたことがある。

あの時、初めて“すし”なるものを見てぶったまげていた。本来、魚というものはアイルランドでは貧乏人の食べるものだった、という話を聞いたが、その彼が日本人の奥さんをもらった、という話には驚いた。

バスに乗せたら、少し人が多くなっただけで、気持ち悪くなったから降りたい、というような、都会慣れしていないピュアーな人だ。見るからにおとなしそうな彼。フィドラーとしても、伝統的なクレア・スタイルを継承する素晴らしい演奏家だ。のせればいくらでも演奏し続ける。

ここで会ったが百年目。と、思ったのもつかの間、「じゅんじ!セッションしよう!」

「よし。決まりだ。何処へ行く?」

結局僕ら3人は、丁度なにもやっていないパブを見つけて、さっさと初めてしまった。このへんの見極めも大切かも知れない。

前のセッションがお開きになって暫くして店に乱入したり、もしセッションがまだ進行中なら、それは初心者向きのセッションか、しっかりとホストが牛耳っているか、かなり開けているけど、腕は確かな連中が揃っているセッションか、いずれにせよ、自分たちが店にやらせてくれ、と頼む以上、かなりこの音楽に精通していなければならないし…。

兎に角、空いている場所があったら、即始める。パットも早速チューニングを始める。フィドル2本とギターで軽く打ち合わせてゆったりとしたテンポからスタート。

パットは乗って来ると止まらない。まれかが言う「こんなパット・オコーナーを見たことは無い」

2時間ほどでパットとのセッションを終えると、彼が言った。「フィークルに居る間に一度家で飯でも食べよう。僕がクックするから」

彼もかなり凝り性で、料理の腕前もなかなかのものらしい。ひょっとして招待されたら魚が出るのかな。お寿司を見てぶったまげた頃の彼の顔を想い出した。

そのあとはいくつかのセッションを見て歩いた。

シェーマス・バグラーがアコーディオンを弾いている。コンサルティーナの若きチャンピオン、ケイト・マクナマラが僕らを見て、遠くから首を斜めに捻る。アイルランド独特の挨拶だ。

どこのセッションも既にミュージシャン達で溢れかえっている。デニス・カヒルも人混みの中から僕らを見つけ、斜めに首を捻る。

今日は少し休んだほうがいいかもしれない。首が疲れた。まだ先は長いのだ。