2011年 アイルランドの旅 ~フィークル その5~ 

もう書くこともあまり無い。今日もセッションだ。また、朝早くからバンジョーの音が聴こえてくる。

80年代、ヴァージニア州、ゲイラックスのオールドタイム・フィドラーズ・コンベンションを訪れた時、4日間で1時間程も眠らなかった覚えがある。勿論、若気の至りというか、若かったからできたことである。

あの時はブルーグラスやオールドタイミーは勿論のこと、ブルーグラス・フリークたちの間でスウィングジャズが大はやりだったころだ。

あらゆる音がキャンプ場に溢れかえっていた。横になっている場合ではなかった。今でも気持ちだけは同じだ。

でも年寄りになったせいか、早く目が覚めるので頭はなんとか起きていて、彼の弾くバンジョーのメロディを横になったまま追う。

やがて、恒例のリヴィングルーム セッションが始まると、さすがのまれかもフィドルを持って現れる。

この家の子供達も楽器を持って現れる。小学校高学年くらいの長男の弾くコンサルティーナは充分心を踊らせてくれる。間違いなく来年にはどこかのステージで観客を湧かせているだろう。

ほどなくしてのアイリッシュ・ブレックファーストを済ませてから、またフェスティヴァル会場に向かう。

今日は遅くからタラ・ケイリ・バンドのコンサート兼ダンス大会。盆踊りのフィナーレみたいなものだ。

それまでは村のあちこちで開かれているセッションに参加したり、また自分たちでリードして時を過ごせばいい。

マーティン・ヘイズとすこし立ち話をする。彼は必ず僕に「アンドリューはどうしてる?」

と訊く。アンドリューのことはじゅんじが一番よく知っている、と思っているようだ。

マット・グラニッチが後ろから僕のお尻に軽い蹴りを入れて、にこやかに話しかけてくる。

デニス・カヒルもパット・オコーナーもみんないる。そういえば、腕を骨折した気の毒な前田君は確か予定を切り上げて今日、日本に向かったはずだ。

内藤先生のなんちゃって診断で、より心配になったようだ。

タラ・ケイリ・バンドの演奏が始まると、もう会場はひとつになる。赤ちゃんから老人まで。ステージ上のマーティン・ヘイズはいつものように髪を振り乱して激しく足を踏み鳴らす。そんなマーティンをにこにこして見つめながら、マイペースでフィドルを弾いているマーク・ドネラン、センスのいいバックアップピアノを弾くジム・カリー。

僕もこのサウンドからアイリッシュミュージックの世界に入った、と言っても過言ではない。

ここの子供たちは、事あるごとにこの音楽を聴いて育ってきているのだ。

フィークル最後の晩にこの場所に身を置けたことに感謝、感謝。