アンドリューの紹介だったが、その昔ちょっとの間“スカイラーク”というバンドで一緒にやっていたことがある、と言う。
とてもひとなつっこい、いいおじさんという感じで、アンドリューと共に日本に来てもらった時も、すしや刺身を盛んにトライしていた。
アンドリューは一切、手を付けなかったどころか、寿司屋でスパゲッティはないのか、と不届き千万なことを言っていた。
アンドリューの頑固さに比べて、なんでもオーケーという感のある、イージー・ゴーイングな人、というイメージだ。
しかし、彼らとのトリオはこれまた強烈だった。ある、日本人のオーディエンスが“えぐい”と表現していたが、のせればのせるほど盛り上がっていくサウンドは、確かにその表現がピッタリしていたかもしれない。
また、あるカリフォルニアのラジオ局に出演した時、ジェリーがなんとフィドルの4弦を切ったのだ。本番で、確か“プラウ・アンド・スターズ”を弾いている時だった。
かなり早いテンポでたたみかけるように4弦をシャッフルしていたひょうしに“ドカン”というような音がした。
僕は一瞬なんの音だろうと思ったが、アンドリューは全く動じず、目を閉じたまま弾き弾き続けている。
本当に銃弾のような音だったのに…。
ジェリーもなにくわぬ顔ですばやく弦を変えている。そろそろヤバい頃だと知っていたのだろうか。あらかじめ替え弦をポケットに入れていたようだ。
数回ペグを回し、そして合図を送るとあっという間に“アビー・リール”に突入した。
その素早いこと。
ジェリーのスタイルは多分にスライゴー地方の影響を受けていると言われているが、どこかケイプ・ブレットンの雰囲気も漂わせているような気がする。
とても彼らしい音だ。
ふたりでハウス・コンサートにも出かけた。40人ほどが入る立派な居間でジェリーの力強いフィドルが響き渡る。
日本での想い出話などを話す時も、本当に楽しそうだ。そして演奏に入ると、真剣な面持ちで弾く。
素晴らしいフィドラーだ。しかし、大勢いるフィドラーの中で、どうしたらこのような特徴のある音を生み出すことができるようになるのか不思議だ。
この人の音からは確かに、ジェリー“フィドル”オコーナーの人柄が飛び出してくる。
岐阜県の中津川でアンドリューとジェリーが二人仲良くシャツを洗濯機のなかに入れた。
暫くして出来上がったジェリーの白いシャツに、アンドリューがペンをさしたままのシャツを一緒に入れたため、青インクがべったりついてしまった。
アンドリューがいつもの少ない口数で「すまん」と言うと、ジェリーは、にっこり笑って「いいよ」
なんか本当に微笑ましい。
その日の演奏も大爆発だった。青インクの染みたシャツで…。