Dale Russと Jody’s Heaven

1996年の終わりころ、当時の相棒であったジャック・ギルダーと共に、ローカルグループ以外としての活動を考え始めていた。

それというのも、他に定職をもっていたフィドラーのケヴィンは、レギュラーとして遠方にツァーに出ることはできなかったからだ。

では、誰がいいか、ということを相談中に、僕が提案してみた。「デイル・ラスは?」二つ返事というのだろう。ジャックも「最高のアイデァだ」と絶賛した。

デイルとはしっかりした面識はないものの、以前、北カリフォルニアにあるメンドシーノという小さな町で毎年夏に開催されている、ラーク・イン・ザ・モーニングという、大民族音楽フェスティバルで見かけたことがある。

フィドル講師としての彼の腕は確かだし、人間的にもかなり評判がいい。

僕らは早速シアトルに住む彼に電話を入れてみたが、なんなく彼からオーケーの返事が出た。

彼も地元シアトルで“サファリング・ゲール”というグループに参加していたが、少し違う動きもしてみたい、と感じていたようだ。

とにかく一度合わせてみよう、という話になった。ジャックとデイルは長いあいだの知り合いであったが、ジャックにとっても、デイル・ラスというフィドラーは雲上のひとであったようだ。

三人が集まってまず始めた曲を今でも覚えている。“Bare Island/Maudabawn Chapel”だ。なぜこの曲を選らんだのかというと…ずっと前にKevin Burkeのアルバムで “Bare Island”がデイルの曲だと書いてあったのを記憶していたからだ。演奏後にそのことを彼に尋ねると、「確かに彼にこの曲を教えたことがあるような気がするけど書いたのは僕じゃない」と言った。

デイルは注意深く僕のギタープレイに耳を傾けながら、彼らしい実直な音を紡ぎだしていく。

そして、ほぼお決まりともいえるセットの、Hunter’s Houseへと、無言のまま突入してそのセットを終えると珍しく興奮した口調で言った。

「素晴らしいギタープレイだ!こんなのは聴いたことが無いくらいだ」

僕らは意気投合し、グループ名を考えることにした。そんな中、僕が言った。「ところでデイル。Jolly Sevenっていう曲知ってる?僕の大好きな曲なんだけど」

デイルが首をかしげて「Jody’s Heaven?」

この会話を聞いていたジャックが言った。「ちょっと待ってくれ。Jody’s Heaven…いい名前じゃないか。これで決定」

かくして一件落着。

このことについて、講釈好きのジャックが熱弁を振い出した。

古い詩の一節で“…and laid him on the green”という言葉を読んだ人に対して誰かがこう言った。“who is Lady Mondagreen?”

このような聞きちがいを称して“モンダグリーン”と言うそうだ。あまり一般的に知られている言葉ではないが。

L やR それにthなどの発音は日本人にはとても難しい。

めでたく名前も決まったことだし、レパートリーを持ち寄って練習を始めるが、さすがに歴戦の勇者が揃っただけに、次から次へとアイディアが飛び出す。

デイルはとても大人しい性格だが、のって来ると演奏は普段聴かないくらいの力強さを発揮する。その上、何事にも几帳面な性格である彼はじっと目を閉じて周りの音に神経を集中する。

その姿には、彼が長年親しんでいる合気道の本筋を思わせるものがある。なにかのインタビューで彼も言っていた。「合気道は僕のフィドルプレイに強く影響している」と。

彼から他人に対する苦情を聞いたこともないし、勿論他の人がデイルのことを悪くいうのを聞いたことは一度たりともない。

カバンの中は常にきちっと整理されていて、宿泊所を去る時などはテーブルをしっかり隅から隅まできれ~いに拭いて出る。常に静かに時を過ごす。

そんな彼だが、最後に面白いエピソードを書いておこう。実際には、あまりにも講釈が多く、今だに17世紀に生きているつもりのジャックには少々うんざりしている部分もあったようだ。

我々がサンフランシスコから北へ3時間ほどかかる“チコ”という町に向かっていた時のことだ。

運転手はジャック。ご自慢の50年代のボルボを制限速度で走らせている。ここまではいい。因みにジャックはその昔メンドシーノ近辺の崖から転落したことがあるらしい。しかしボルボに乗っていて助かったということだ。それ以来ボルボ以外には乗ったことが無いそうだ。もうひとつ因みに、Jody’s Heaven2枚目のCD録音中に、メンドシーノのほぼ同じ場所でかの有名なギタリスト“マイケル・ヘッジス”が事故死している。

さて、休憩のためにドライブインに入りコーヒーを飲みながらジャックが狭いテーブルの上に地図を広げた。

「ジャック。地図は俺が見るから君は運転だけしていてくれ」「オーケー分かった」暫くするとまた地図を広げるジャック。テーブルが狭いのである。

「カモン、ジャック。地図は俺が見るから運転していてくれたらいいんだ」「オーケー」

さて、店を出て早々助手席にのりこんだデイル。ジャックは動物園のゾウのようにゆっくり店を出てきて、やにわに車の屋根の上で地図を広げた。

そのとたん今までに聞いたことの無いデイルの大声が駐車場に響き渡った。

「GOD DAMN JACK!!! You just drive.I take a look map!!!」

後にも先にもあんなに大きな声を出したデイルを見たことはない。
このたぐいのことは沢山あったが、ジャックはおっとりしていてとてもいい奴だし(ああ見えて僕より4歳年下)デイルは誰からも尊敬される人物だし(ああ見えて僕より6歳年下)とてもいいバンドだった。

2012年1月にここ日本で14年ぶりのJody’s Heavenコンサートを企画させていただいた。

みんなそれぞれに歳とって、なんというか、“大人の音楽”を演奏した実感に湧いた。

Jody’s Heaven…アイルランドでもアメリカでも、伝説のバンドのひとつになっている。