考えてみれば、レコーディングというものに携わってからもう55年にもなる。
そのせいか最近、いろいろなことを思い出す。
ま、今回のサウンドタムでの録音でしばらくお休みしようかと考えているので尚更かな?
よく思い出すのがやっぱり省ちゃんとのやりとり。
ナターシャーで「今風の中」を録音した時、皆さんも知っていると思うが、あの「あ~ん」みたいな高い声。
あれ、僕のリクエスト。
省ちゃんに「こんなん入れてみて」と言ったらやってくれたが、後で「あれ、めちゃ恥ずかしかったわ」と言っていた。
「疲れた靴」のあの高い声も僕のリクエスト。
あれだけの声を出せるのは彼しかいない。といえども、あれをやったのは実際には木田ちゃんだったかな。
省ちゃん、恥ずかしいから嫌やって言ったかもしれない。
「Midnight Special」でGからG#に転調する時、その最初の音がE♭に突然飛ぶのだが、その役割が僕だった。
省ちゃん「お前、よく急にE♭出せるなぁ」と感心していたが僕は「簡単だよ。花嫁を唄ったらいい」と答えた。
実際E♭で花嫁を唄ったら、出だしのメロディーはGからE♭。
そんな想い出は数えきれないほどあるんだろうな。
それによくあれだけの録音をやってきたなぁ、とも思う。
アメリカで録音した時には、エンジニアのデイブ・ウエルハウゼンという男が「お前、相当レコーディングに慣れているなぁ」と感心してくれた。
サンタ・クルーズでのジョディース・ヘブンではエンジニアでギタリストのウイリアム・コルターが「お前、途中でカポ動かしたのか?気がつかなかったなぁ」と驚いていた。
確かにアイリッシュではキーチェンジをするので、僕にとっては必須事項だった。
アイリッシュの連中はあれだけ多くの曲をまずやり直すという事がない。
なので12~3曲でもほとんど一日で録り終えてしまう。ほとんどがメドレー形式なので実際には数十曲と言えるが。
まれかさんもそうだった。
あの人の場合「他に類を見ない集中力」と言えるかな。
手術と同じでやり直し、という観念がなかったのかもしれない。うん?…。
僕はタムちゃんにいっぱい助けてもらっている。
ま、昔のようにスムーズにはいかない、という事だ。
レコーディングは演ずるほうも大変だが、エンジニアの方はもっと大変だと思う。
様々なミュージシャンの様々な音楽を扱っているのだから。
そんな意味でもここ2年の間にこれだけ多くの録音をしてきているので、お互いがよく分かっていてとても楽だ。
タムちゃんの方も僕の「くせ」みたいなものが分かっていてやり易いと思う。
前作の「Lily of the Valley」の「君かげ草」ではとても控え目ではあったがベースを弾いてくれた。
それは録音しながら僕も心の中で、これはベースが入ったらいいな、と思っていたので、正に同じことを考えていた、と言えるだろう。
そうして進めてきたレコーディング。
それもいよいよ大詰めに入りつつあるが、今回もナターシャーやヒューマン・ズーの懐かしいものが入る予定。
僕自身、懐かしいとかあの頃をもう一度とか、そういうのは自分の主義ではないので、充分懐かしさはあっても、どこか独特のアレンジというところを目標にしている。
「街」しかり「君かげ草」しかり、自分にしか思いつかないアレンジというものを常に意識していたいのです。それにしてもレコーディングはかなり疲れる…歳かな?