人との出会い、というのも大事だが、楽器との出会いにもなかなか面白いものが有る。
バンジョーを弾き始めて60年近く。
最初はその形にすらお目にかかることができなかったが、後に数多くのバンジョーを見ることとなった。
最近の超軽量のバンジョーには正直驚かされた。
今年に入って割とすぐ、例のドクターサウンドに小林氏を訪ねて行った時の事。
彼がすぐに「もうこれからはこれですよ」と言って出してきたのがそのバンジョーだった。
半信半疑どころか、こんなちゃっちいの要らんなぁ…なんて思いながら、それでも腰かけて弾いてみたら、驚きのサウンド。
「ちょっと君弾いてみて」と、正面からの音を確かめるも、グイグイと引き込まれる感触。
いや、それは高価なバンジョーに比べればいろいろ突っ込みどころはあるが、もう今更そんなに高価なものを手に入れる気もないし金もない。
「これいくら?」「3万6000円です」「包んで」「お客様、ありがとうございます。」
店に入って買う気の無かったものを僅か15分ほどで購入してしまった。
僅か数分で何百万円ものギターを買う人もいるのだろうけど…。
この出会いはなかなか新鮮なものだった。
出会い、と言えばここの小林君との出会いもなかなか不思議なものだった。
朝起きて何気なく楽器に関する情報をみていたら、ギブソンバンジョーが比較的安価で池袋のクロサワ楽器にあるという事。
早速お店に電話したらまだあります、と云われちょっと遠いけど行ってみるか、とそんな軽い気持ちで出かけた。
買う気半分、買わない気半分、値切る気充分。
さて、店に入ると背の高い綾野剛みたいな若者が「あ、さきほどのギブソンですね」と言って出してくれた。
しばらく弾いて考え、そしてまた弾いて考え、もう少し安くならないかな?と切り出そうと思った処に彼が「城田じゅんじさんですか?」
これでは値切れない。
「そ、そうです」あっけにとられている僕に彼が「僕の親父がナターシャーの大ファンで、そんなこともあって僕もずっとバンジョーを弾いています」
あちゃー。こりゃ駄目だ。良かった先に言ってくれて、と云うのが僕の素直な気持ち。
結局、なかなか良い物だったのでそれは購入したが、僕の中では、あの人散々弾き倒していったけど結局買わなかった。たいして高くないのに、なんて思われるのもなぁ、という気持ちがちょっぴりあったかも。
当時でまだ20代前半だった彼がまさかナターシャーを口にするとは…。
それどころか僕よりしっかり歌詞や曲順、107ソングの隅から隅まで覚えているのです。
そんな彼が所属するお店には暇があれば出掛けて行く。
いや、いつも暇ですが。
そうなるとお店でも忙しそうに入ってきた有田君とも会うし、忠英さんや、バンジョーの原君、そして先だってはクローハンマーの加瀬さんともお会いすることが出来た。
そして様々なお客さんとも会うことが出来る。
やっぱり少しでも外に出て行くと新しい発見があったり、良い出会いがあったりと、コロナはかなり長期間そんな当たり前の事を妨げてきた。
その上、歳のせいか出不精も手伝って(少し太り気味の友人にそう言ったら、僕の事ですか?と言っていた。いやデブ性じゃなくて、と言っておいた)外に出るのもおっくうになる。
そんな中、例え決まった所でも行く場所があれば、彼(小林氏)を通じての友人からもお誘いがあったりするのでありがたいことだ。
そうして電車に乗って、いろんな人を見て、いろんな景色を見て、世の中の空気を感じて…という事はとても尊いことだ。
様々な出会いと云うものがとても大切なんだ、という事は例え元のように戻っても忘れてはいけないことだと改めて思う。