日本のアイリッシュ・ミュージック愛好家の間では全く馴染みのない名前だろうが、アメリカ西海岸きってのダンサーだ。
サン・フランシスコにダンス学校を持っていて、多くの生徒さんをかかえている。
僕も、セント・パトリックス・デイなどの大きなお祭りでは必ず、彼女の生徒さんたちのダンスの伴奏をした。
アンドリュー・マクナマラとのほんまもののケイリと、ほんまもののダンス。それが実に見事に決まる。
生徒さんは大人から子供まで、ほとんどが女の子だった。
おもしろいエピソードがある。
車の中にはパトリシアとアンドリューとジェリー・フィドル・オコーナー、そして僕と三人の女子高生。
僕らは今夜のフェスティバル会場に向かっている。
彼女たちが「ねぇ、じゅんじ。アイカップのスペルを言って」僕は迷うことなく「アイ・シー・ユー・ピー」と答えた。
彼女たちはキャッキャ笑う。お分かりかな。(ピーはおしっこのこと)いっぱいくわされたわけだ。
そんな彼女たちも、本番が始まると一流のダンサーとなる。
パトリシアも勿論のこと素晴らしいダンスを披露する。
ここらで本題に入ろう。
パトリシアはアコーディオンを弾く。そして、それは決してテクニカルではないが、アイリッシュ・ミュージックに精通する人々は
口々に”ジョー・クーリーの再来”だと言う。
ジョー・クーリーは一時期、サン・フランシスコに住んでいたが、その頃からパトリシアのプレイは評判だったらしい。
彼亡き後、今、最も忠実に彼のプレイを再現する人はパトリシアだと言われている。
彼女はセッションに現れてもほとんど弾くことがない。
でも、僕は必ず彼女にリクエストしたものだ。「パトリシア。マスター・クローリー弾いて!」
目を閉じて聴いていると、本当にジョー・クーリーが目の前にいるようだ。
パブは一瞬静まり返る。パトリシアが目で合図する。「じゅんじ。ギターを弾いて」
ジョー・クーリーのサウンドは永遠に生き続ける。