2014年 アイルランドの旅〜ジョニーの家〜

6月28日(土)晴れ  今日も涼しい風がふいている。昨夜のうちにそこそこ雨が降ったようだ。

今日からしばらくジョニー“リンゴ”マクドナーの家に泊めてもらう。ゴルウエイから車で20分くらい。オランモアーの一角、静かな住宅街に彼の家はある。

今晩はゴルウエイのパブでフィドラーのローナンとバンジョーのブライアン、そしてジョニーと僕らでのセッションをやる。

ローナンも若手の良いフィドラーだし、ブライアンもディ・ダナンのキーボード兼バンジョー奏者として活躍した人だ。

セッションの途中でジョニーに電話が入る。

このセッションの後、10時からスピダルというところでジョニー・コノリーのセッションに来てくれ、という話だ。

ゴルウエイの中心部から西に40分ほどだろうか。ジョニー(リンゴ)は僕らにも誘いの言葉をかけてくれた。

ジョニー・コノリーは有名なアコーディオン奏者で、父親の同じジョニー・コノリーというメロディオン奏者と共に有名な音楽家だ。

少し早い目に9時40分くらいにパブに入る。

小さな街並みの中に4軒ほどのパブがみえる。外はまだ明るい。しばらくするとふたりがやってきた。

ジョニーが僕らを紹介してくれた。今日はジョニーが3人もいてややこしい。もう一人スティーブというアコーディオン弾きも現れた。50代はじめくらいのこの人も普通にアコーディオンを操る。かなり上手い人だ。

そして、ジョニー(息子)の方はかなりのテクニック。目を閉じてひたすら弾きまくる。父親のジョニーはテクニックもさることながら、にっこりしてかなり渋い味を持っている。

超一流のセッションという雰囲気だ。そこに一人ビールを持った老人が来てセッションを聴いている。みんなの知り合いのようだ。

どこかで見たことがあるかもしれない。う〜ん誰だったかな、と思いながら彼らの会話に耳を傾けていると、盛んにチャーリーと呼んでいる。

もしかしたらあの人かもしれない。一度サンフランシスコで顔を見たくらいの感じで会っているあの人かもしれない。

希花に「多分彼はあの人だよ。試しにあれ、やってみてくれ。12PinsとKilty Townのセット」といってみる。何故ならば有名な、あのチャーリー・レノンのセットだからだ。

始めようとして、息子のジョニーに曲を告げると、老人の方を向いて「チャーリー・レノンセットだ」という。すると彼は嬉しそうにうなずいた。

チャーリー・レノンだ。間違いなく彼だ。フィドラーとして、ピアニストとして、また作曲家としてアイリッシュ・ミュージックの世界に現存する伝説の一人だ。

希花にとってみても、会うことは叶わなかったかもしれない人物が目の前にいて彼女のプレイをじっと聴いているのだ。しかもかなり最初のほうから。

チャーリーはとても喜んでくれた。やっぱりスタンダードといわれるものをきっちり覚えておくことは大切なことだ。

チャーリーに訊いてみた。「サンフランシスコにはいつ頃行きましたか?」すると彼は「そうだな。随分前だったなぁ。90年代の半ばだったかな」「そのときあなたはプラウ・アンド・スターズに寄りませんでしたか?」「うん、行ったよ。そういえばセッションをやってたなぁ。君か?」

あの時、ジャックがチャーリー・レノンだ!と言った記憶はかなり鮮明にのこっていたのだ。

その時もカウンターでビールを飲みながらにこにこして聴いていた…ような気がする。

今度はどこで、いつ会えるだろう。

家に戻った時には、もう2時を回っていた。しばしジョニーと紅茶を飲みながら歓談し、4時近くになってベッドに入った。

チャーリー・レノンは超大物だった。でも気がつかなければ、少し上品な単なる飲み客にしか見えなかっただろう。

くわばら、くわばら…。

 

6月29日(日)薄曇りながら大体晴れ。 後快晴。

日曜日。8時半までセッションもないので、キンバラという風光明媚な街に行ってみる。

パブの前にジョニー・モイナハンが座っていた。アイリッシュ・ミュージックにブズーキを初めて持ち込んだ人だ。

この街にも有名なミュージシャンが沢山住んでいる。セッションも行われているが、今日はとことんゆっくりすることに決めているので、3人でお茶をのみながら美しい景色を楽しんだ。

10時になっても日本の夏の午後6時くらいかな、まだ明るい。時間の感覚が次第になくなってきている。

 

 

6月30日(月)快晴。気温は20度くらい、とラジオで言っていた。

絶好の洗濯日和だ。

今日は夕方からクレアに行って地元のクレアFMに出演する。ジョニーと、もうひとりConor Keaneというアコーディオン奏者が一緒だ。

彼らは最近新しいアルバムを出した。その宣伝も兼ねてのラジオ出演にぼくらもゲストとして出させてもらう。

Conorとは去年どこかのパブで一緒に演奏しているし、ラジオのパーソナリティとは随分前に会ったことがあるらしい。

クレアにはアンドリューを筆頭に知り合いが多くいて、どこにいっても「よ、久しぶり」と言うような人がいっぱいいる。

お顔は覚えていますが、お名前だけが♪とはよく言ったものだ。

ぼくらが出番を待っていると、ご機嫌なコンサルティナが聴こえて来た。マリー・マクナマラの新しいアルバムがかかっている。

クレアの、タラの景色が浮かんでくる。

僕らの出番がやってきた。まず、彼らのニュー・アルバム“Rough &Ready”の紹介から彼らの生演奏。

Conorは実に良い演奏家だ。ジョニーとはArcadyのころからの付き合いらしい。

素晴らしいリズムがスタジオに充満する。

おしゃべりがあって、ジョニーが僕らをしょうかいしてくれる。ラジオで、あるいは公共の場でしゃべるのは難しいことだ。3〜4分の質疑応答のあとぼくらも1セット演奏した。

そして最後に4人でジグを演奏して無事終えた。

スタジオの外に出るともう夜の9時半過ぎているのに、まだ全然明るい。一路ゴルウエイに向かうが、フリー・ウエイに全く車がいない。

対向車線は時々走って行くが、ゴルウエイ方面には最初の30分位、前を行く車も追い越して行く車もいない。

空がオレンジ色に染まっている広大なクレアの夕暮れを独り占めしているようだった。

明日から友人のアパートに引っ越しだ。ゴルウエイの中心にある便利な場所で、しばらくはそこを拠点にして動く。