2014年 アイルランドの旅〜一路ゴルウエイへ〜

6月23日(月) またまた快晴。ゴルウエイに向かうバスの中でテリーから電話がかかる。もうここまで来るとお構いなしに話してしまう。

アイルランドではどこでも携帯の着信音が聞こえてきて、結構な大声で話している人が多い。それにくらべれば僕の声なんて小さい方だろう。一応は気を使っているし。

来月少し時間が出来たらゴルウエイに出てくるということで話を終えた。僕らは彼を日本に呼びたいのだ。コンサルティナの神様のひとりである彼はとても素朴な人で本当の本物のトラッドミュージシャンだ。

日本のアイリッシュ・ミュージック愛好家たちがどれだけ興味を示すか分からないが、彼らが最も聴かなければいけない人のひとりであることは確かだ。

3時頃ゴルウエイに着いた。少し風邪気味なので今日はゆっくり休むことにする。このところ寒すぎる。

30度にもなるところから、夜になると15度を大幅に下回っているだろう場所に突然身を置いているので体が付いて行けないのだろう。やっぱり歳かな、と思いつつも希花さんも風邪っぽいようだ。

無理も無いかもしれない。まぁ、希花さんに診察してもらうよりは、葛根湯でも飲んで早く寝た方がいいだろう。

来月に入ったらいろいろと忙しくなるので今のうちに体力温存で行こう。

 

6月24日(火)快晴。 朝5時をちょっとまわったところ。夕べ10時少し前には深い眠りに就いたので4時頃にはもう目が覚めた。外はもう明るい。そういえば、昨晩眠りに就いた時も明るかった。

少し曇っているようだが、今日の文章の頭の部分にも、快晴、と書けるようになるのか、それとも今日くらいは雨に降られるか…どうだろう。

果たして…快晴。

昼前に楽器屋へ行って5弦バンジョーをゲット。これからの仕事で使えるようにすこし良いものを手に入れたが比較的、いや、かなり安かったので大満足。

それからコーマックと落合って仕事の話をして、なんやかやくだらない話もして、ショッピングストリートを歩いていると、どこかからオールド・タイムが聴こえてくる。

見てみるとフィドル、ベース、ギターのトリオだ。5弦バンジョーもある。ギブソンのスクラッグス・モデルだ。

Nobody’s Businessを一曲聴いたところで尋ねてみた。「バンジョーを弾かせてくれ」快く受け入れてくれたのがいかにもアメリカ人らしい対応だった。バージニアから来ているらしい。

すでに沢山の人が聴いていたが、予想のできない展開で、あっという間に黒山の人だかりができた。

やっぱりブルーグラスはなんとなく陽気で人々の興味を引くらしい。彼らもなかなかに良いグループだった。

さて、この国で晩御飯になにを食べるかということを考えるのは、なかなか難しいことだ。

「美味しかったね」「また来ようね」というような日本のコマーシャルにあるような言葉を交わすことは先ず無いとみていい。

こういう物が美味い、という味覚はいったいどこからくるのだろう、と思わせる料理がほとんどだ。

結局、フィッシュ・アンド・チップスで済ませるのが一番安くてお腹に溜まる。そしてほとんどどこも同じ味だ。

そういえば東京のどこかで「東京一美味しい本場の味」と詠ったフィッシュ。アンド・チップスを出している店があったなぁ。

本場の味ってどんなもんか知らないのかな。

日本の食文化は偉大だ。

 

6月25日(水)曇り。また早く目が覚めたので6時から散歩に出た。少し歩くとGalway Bayに出る。

初めてBreda Smythに連れて来てもらった時も今日のようにどんよりした天気だった。

これから7月に入ると少し雨も多くなるのかもしれない。そして8月半ばにはもう夏が終わる。その頃になると、上着なしでは歩けないこともある。

やはりそういう気候だから、がっつりとしたものを食べなければいけないのだろう。

「旨味」などという概念がないのもうなずける。

午後1時半、アイルランドらしい雨が降って来た。ある意味これでなくちゃ、という感じだ。

びしょびしょに濡れたソフトケースのギターをかついで、走るでもなく行き交う若者、雨にうたれたテイクアウトのピザを食べながら歩いている女の子。どこまでもワイルドだ。

これから先はこんな天気が続くだろう。それでも降ったり止んだりすることがほとんどだ。

通りをぶらり歩いているとアコーディオンが聴こえてきた。覗いてみるとアンダースともう一人、バンジョーの二人だけでやっている。

アンダースは奥さんが「まよさん」という日本人のフィドラーで、今日はいらっしゃらなかったが、奥さんの里帰りも兼ねて日本で演奏したりしている、日本でもよく知られているカップルだ。

アンダースはゴルウエイのセッション・ホストの一角を背負っている。ミュージシャンの数が少ないセッションは、全ての音が聞こえてとてもいい。まだまだ早い時間だったので、それが良かったのだ。

6時〜8時くらいのセッションではそういうことが結構ある。特にギタリストやブズーキ奏者がもうひとりいて、たいして理由の無いコードを感覚で入れられたりするとお手上げだ。

また、そういう人に限ってなかなかやめてくれないのだ。

8時にセッションが終わった。みんなに挨拶をして出てくると、そうだ、思い出した。

すぐ裏手の教会、セント・ニコラス・チャーチでコーマック達がコンサートをやっているのだ。今日は彼を含めた5人のミュージシャンによるライブ・レコーディングが行われているはずだ。

少し覗いてみることにした。

50人ほどのお客さんに囲まれてシリアスに録音している。セント・ニコラス・チャーチは素晴らしく美しい音をプロデュースしてくれる。

ピアノ、コンサルティナ、フィドル、パイプ、そしてブズーキの音が、自然のリバーブでお客さんを包んで、なんとも荘厳な雰囲気だ。

この教会では去年に続き、ぼくらも何度か演奏する予定になっている。

久しぶりに12時をまわるまで徘徊した。

 

 

6月26日(木)朝のうち雨。現在10時。もう晴れて来ているが安心はできないだろう。

外からはかもめの鳴き声がひっきりなしに聞こえる。ゴルウエイもダブリンも同じだ。

街のいたるところをカモメが飛び交い、そして歩道を歩いている。車の行き交う通りを早足で渡るかもめ。変な奴だなぁ。飛んだ方が早いんじゃないかな、と思ったりして。

午後6時。またアンダースの軽快なアコーディオンが聴こえて来た。今日は8時からバージニアの連中の演奏を聴きにいくのでそれまでセッションに加わらせてもらおう。時間的にはちょうどいい。

セッションを終えてコーマックのアパートの隣にあるモンローズというパブに行く。

彼らともうひとつのバンドとのコンサートがここであるのだ。

彼らの演奏はいかにもアメリカらしい、様々な音楽をミックスしたものだった。ブルーグラスあり、スウィングあり、ヨーデルあり、30年代のデイブ・アポロンのロシアン・ラグはなかなかきまっていた。

かなり楽しいバンドだった。

そして、次に登場したグループは5人編成の、これもなんと説明していいだろうか。スライゴーのフィドラーを中心にして、フラメンコ・ギターのスナフキンみたいな奴から、マンドリンを巧に操り、チェロやキーボードを弾く女の子、一見今にも死にそうなギタリスト、それとベース。中近東ものあり、アイリッシュあり、スパニッシュあり、ボーカルもそれぞれ味があって実に上手い。ゴルウエイもさすがに音楽が盛んな都会だ。さしずめボストンのような、と言えるだろうか。

戻って来たのが12時少し過ぎた頃。眠っていたら3時半にジョニー“リンゴ”からメッセージが入った。

明日、いや、もう今日だ。6時からセッション・ホストをやってくれ、という内容だ。去年一緒にやった、Mick Connollyとの4人。もちろんオーケーしたがさすがに眠たかった。

これからはこんなシチュエーションも増えてくるだろう。しっかり健康管理しておかないと身体が持たない。

 

 

6月27日(金)晴れ

6時。セッションがスタートしたが、間もなくしてクリーナ(コーマックの妹)から電話があった。

コーマックが飲み過ぎて演奏ができないから教会でのコンサートを急遽手伝ってくれ、という。

セッションは8時まで。コンサートは8時から。ファースト・ハーフを別なミュージシャンでやってもらって、2部を僕らということにしておけば余裕がある。

1部はコンサルティナの名手、カトリーンだ。ダンスもこの上なく上手い。因に希花がコンサルティナで弾いている「Sunday’s Well」という曲は彼女の演奏から覚えたもので、彼女のオリジナル曲だ。

因に、今回これを希花がフィドルで演奏したことをいたく気に入ってくれたカトリーンが演奏のもようを彼女のフェイス・ブックにのせてくれた。

僕らは2部を30分ほどやって、最後にお決まりのマイケル・コールマンセットで終えた。

50人ほどのお客さんも結構楽しんでくれたようだ。

そのあと、また近くのパブでショーン・トリルのコンサートをやっている。僕は15年くらい前に彼と、パディ・キーナンとで廻っていたことがあるので、挨拶に出かけた。

彼の歌は超一流だ。高田渡か、ギターがもう少し上手い高石ともやというところだ。

一緒にやっていたころ、僕は彼のギタリストでもあった。歌に沿ってギターを弾くのはとても気持ちのいいことではあるが、難しいことでもある。彼は僕のギター・プレイをとても気に入ってくれていた。

クレアに住んでいるとのこと。またフィークルで会う約束をして別れた。帰りしな、コーマックが現れて盛んに「ごめんなさい」といいながら、僕らにビールをおごってくれながら、また飲んでいた。

懲りない若者だ。でもこれくらいの方が面白い。