アブダビ空港、午前一時。こちらの方面の人が圧倒的に多い。
僕の隣で黒ずくめのヒジャブを着た年配の女性がスープを飲んでいる。
ちょっと見ると顔もほとんどおおわれていて、その顔をおおっている布をいちいちめくりあげ、ひとスプーンごとにまた顔をおおっている。
大変だなぁ…なんて余計なお世話だが、さらに純白のガンドゥーラというのかな、あの中東の衣装、それもさっき注文の物が出来上がりました、というくらいパリパリに糊が効いているような輝くばかりの白で、この人、何だかケチャップのパスタみたいのを食べている。
よせばいいのに。おとしゃしないかなぁ、とこちらも大きなお世話だが、慣れているのか
全然こぼさない。大したものだ。
ところで、外の気温はこの時間で37度。昼は40度くらいあったらしいが、ま、東京とあまり変わらない。こちらのほうがカラッとしていていくらかましかも。
そしてダブリンに着いたら10度。
これは年寄りにはきつい。
夜はノエル・ヒル宅でビールと彼の調理したムール貝。締めに赤ワインで語らいながら、意識が朦朧としてきてまだ明るい9時には爆睡。
長いフライトと気温の差で…おっと、ひとつアイルランドあるある、ということがあったんだっけ。
空港で荷物受け取りの際、アブダビからのフライトは2番、という表示があり、ずっと2番のところで流れてくる荷物を見ていたが一向に出てこないので、ふと周りを見るとなんだか同じ飛行機に乗っていた人たちが1番にもたまっている。
そればかりではなく、3番にも見たことがある人達。
ちょうど空港職員らしき若い女の子がいたので、どこから出てくるの?と訊いたら「アブダビだったら1番か2番」というではないか。「じゃぁこの人ごみの中、両方見なくてはならないの?」と訊くと「ま、そういうことね。ところであなたのチケット見せて。あ、これは3番から出てくるわ」「え~聞いてないよ」
てなわけで3番で待っていたが一向に出てこない。そんな中一緒に乗っていたインド人の家族の大量の荷物のいくつかがまだでてこないらしく、二人の7~8歳の女の子と15~6際の女の子がしびれをきらして遊んでいた。すると大きいほうの女の子が「お父さん、あれ私たちの荷物じゃない?」と2番の方を指さした。
僕もつられて何気なく2番の方を見ると、なんと僕の荷物も流れているではないか。
あきれて引き揚げてから先ほどの若い女の子に「2番で出てきたよ」と言ったら大笑いでおわってしまった。
おおらかな、といえば聞こえがいいが、あまり信用もできないアイルランドあるある。
また、これからゴールウェイに向かうバスのチケットが一時間後のものだったが、目の前にそのひとつ前のバスらしきものが止まっていてちょうどドライバーが最後の確認をしていたので「これ一時間後のチケットなんだけど…」と言って見せたら「あ、荷物入れておけ。俺がこのバスに乗れるようにしてあげるから」と、早速手続きを済ませてくれた。
日本ではなかなかこんな具合にはいかないだろう。
どちらもその、適当な曖昧さがいかにもこの国らしく、うれしい時もあれば悲しい時もある。
言い換えれば、先が思いやられる感と何とかなる感が入り混じっている、そんな国だ。