今日はバンジョー弾きのジョンがどこかに連れて行ってくれるらしい。
少し小雨が降っているが、さすがにジトジトした感じの雨ではないので、庭のウサギも同じところで佇んでいる。
時折ピョンと跳ねるが、その時、おしりのあたりが白くてとても可愛らしい。耳が綺麗にピースサインのようになっている。
そんなウサギの観察をしているとジョンが来てくれた。10時半。ほとんど正確だ。
今日はドライブがてら、友人のギター&バンジョー作りの工房につれていってくれるということだが、「連絡がつかないんだよねー」と言いながら走る。そしてまた走る。
ひたすら走ってカウンティ ウィックローに入る。景色がガラッと変わる。
実際、どこもかしこも緑、そして緑なのだが、ここはその緑の深さがまた違う。きれいにトンネル状アーチになった木立を抜けると、荒涼とした大地も見えてくる。
ジョンが「800年の終わりころバイキングがこの土地を開拓して町をつくったんだ。それから…」とニコニコしてこの土地の歴史のことを細かく説明してくれる。
この国では沢山の人が自分の生まれ育った場所以外についても、その歴史や文化のことをよく知っている。それとよく訊かれるのは日本の人口だ。
そのつど、あー正確に覚えておかなくちゃ、と思うのだがついつい忘れる。
途中、カフェでコーヒーをいただく。空もすっかり晴れ渡っている。晴れ男全開。
ところでここまで約2時間。すごい勢いで走り続けているが、友人とはまだ連絡が取れないらしい。
「たぶんバケーションにでも行っているんだろう」とのんびりしている。よくよく聞くと、別な道を通ればもっと早く彼の工房には行けるらしいが、僕らにウィックローの景色を見せてあげたかったらしく、遠回りをしたみたいだ。
終始にこにこしてバンジョーの話に夢中になったり、いろんな説明をしてくれるジョン。一緒にWicklow Hornpipeを歌う。
結局3時間くらいの行程で「またいつか来よう。今日はそれより家でバーベキューでもしようか。そして夜はセッションだ」
なんだかとても嬉しそう。
さて、ジョンの家だが。
素晴らしく広い緑に囲まれた、素晴らしいデザインの家。自分たちで建てたというがこの人のセンスがうかがわれるものだ。
裏庭ではポニーが草を食べているし、隣の家では緑の大平原のような広さの庭に羊たちがくつろいでいる。
ジョンの家も坪数にしたら…う〜ん、よくわからないけど800坪ではきかないだろう。庭に咲き乱れるラベンダーからもいい香りが漂っている。
これだけ広大な土地にガラス張りの大きな部屋がいくつもあって、どこの部屋も綺麗にしてあって、時計も正確な時間を指していて(この人がいつも時間通りに現れる理由がわかった)等…それでいてとても質素な暮らしをしているようでどこまでも好感の持てる人だ。
肉や野菜が焼けるまでちょっと弾こうか、とバンジョーを出すジョン。今日は家族がみんな出かけているので、ひとりでバーベキューもバンジョーもこなす。
ワインを飲みながら、羊やポニーを見て、広大な緑と爽やかな風に当たって、すっかりできあがって、さぁセッションに出かける。
ジョンも飲む気満々で、タクシーを呼んで一路カーロー方面へ。僕らもさっぱりどこに連れて行かれるのか分からないけど、ここはジョンに任せるしかない。
着いたところは、ちょっと見、コミュニティーセンターっぽい見かけだが、中がパブになっていてそこにすでに数人の子供や大人がいた。
ここでは地元の子供達が集まってセッションをする場を提供しているようだ。もちろん大人も参加するのだが、子供達がなかなかに可愛い。
6歳くらいのアコーディオンを抱えた男の子や、そのお姉ちゃんらしき10歳くらいのフィドラーの女の子。フルートもいる。4歳くらいの女の子がハープをたどたどしく弾いた。
こんな風に、練習してきた曲を披露する場所があり、大人たちが「なんか弾いてごらん」と促すと、とまどいながらもジグやリールを弾き出す様はこの国独特の光景かもしれない。
3時間ほどここで過ごし、帰りのタクシーの中で「もう一軒セッションがあるけど行くか?」と言う。
そこは帰り道だからどちらでもいいよ、というが、こうなったら“のりかかったタクシー”だ。
もう一軒は僕らもキアラン君に紹介されてよく知っている人のパブ。どちらかというとシンギング・セッション。
おじさん、おじいさん、おばさん、おばあさん。その数7〜8人。
マギーという推定80歳くらい(間違っていたらごめんなさい)の女性が歌を歌う。朗朗と歌うその様は僕たちに、随分ディープな場所に来ている、ということを実感させてくれる。
いくつかのチューンも演奏したが歌の伴奏で5弦バンジョーも弾いた。なんとなくクランシー・ブラザースのようなサウンドに地元の人たちも大喜び。
久々にフォークソングのようなバンジョーを弾いた。
Inisheerで希花さんが一発入魂のフィドルプレイを披露すると、周りから感激の大拍手。
僕らもすっかり打ち解け、彼らともすっかりひとつのグループのように歌い、演奏して帰路についたのが12時頃。
帰りのタクシーにはマギーも乗り合わせたが、彼女と運転手の会話、英語だったようだが、なにを言っているのかひとつもわからない。
特にマギーのほうは独特なアクセントだ。それでもジョンにはわかるようなのでそれが不思議だ。当たり前か。
でも、僕は高橋竹山先生がなにを言っているのかよくわからなかったが。
とりあえず今日も無事に終わった。
14時間ほどの貴重な経験。ジョン、どうもありがとう。地元の子供達も大人たちもみんな素晴らしい笑顔でした。ありがとう。