8月12日 土曜日 ゴールウェイの窓越しに見る光景は、ただ一言「めっちゃ寒そう」
お隣さんの煙突から出ている暖炉の煙がすごい勢いで横に流れている。
少し雨も降っているのだろうか。
道行く人もみんなコートを着て背を丸めて震えあがるようにして歩いている。
ちょっと日本の天気を確認すると、時間の違いはあれど、東京34℃となっていた。
今現在ここは16℃、恐らく東京の同じ時間になっても20℃以上にはならないだろう。
そんなゴールウェイも久しぶり。
6日から今までフィークルフェスティバルのため、クレアーに居た。
ゴールウェイ市内とは一変して深い緑に囲まれた生活。
マナス・マグアイヤーの家で朝のコーヒーとグラノラ、昼の各種サラダ、夜のチキンや野菜、全て緑一杯の庭での食事。
別にゆっくりしに行ったわけではないが、これも含めて全てこの音楽。
本当に時々しか聴こえない車の音と牛の鳴声を背に話が弾む。
この民族は本当に話好きだ。
食事はそれぞれが持ち寄った話を聞き、沢山の質問をし、ジョークを言い、時間をかけて楽しむものだ、ということがよくわかる。
少し遅くなったときには、暖炉の前でチーズとワインでまた語り合う。
よくこんなに話すことがあるな、と思うくらいに話す。そしてまた話す。
音楽シーンでも同じかもしれない。
今回僕らはEast West Fiddlesとしての比較的短いセットのコンサートでの演奏と、セッションを担当していた。
ここでも「アイルランドあるある」が炸裂。急に出演順が変わるなんて…さっきまでの、いや、1か月前までのあれはいったいなんだったのだろう、みたいな。
また「あるある」の一つとして、サウンドエンジニアのこの音楽に精通した音の作り方だろう。
いろんなグループが演奏するので、いろんな楽器が登場する。ボーカルもある。しかし、決してハウリングなどは起こさないし、めっちゃバランスがいい。モニターにもなにか注文することはほとんどない。
出演順がわずか数秒の間で変わってもなんの問題もない。これも不思議な「あるある」だ。
加えてお客さん。一杯のお客さんの反応もこちらの気持ちを高揚させてくれる。
ステージが終わってから、一杯飲むためにバーに出かけるとそこでは大きなセッションがあちこちで行われている。見た顔が一杯。
久しぶりにランダル・ベイズにも会った。ジェリー・ハリントンがまた大きな声で笑っていた。コーマック・ベグリーもマリーさん(アンドリューのお姉ちゃん)そしてアンドリュー。
しばし、ピート・クインとカレン・ライアン夫妻、アンドリューと語り合い、ギネスとハイネッケンを飲み干し、その日は帰路に就いた。
いろんな人に会ってそれぞれにいろんな話をするのもけっこう疲れるもんだ。そのうえビールも一杯飲むし。半分くらいになると必ず誰かか「もういっぱいいくか」というので、もしいくらでも飲める人だったら大喜びだろう。
僕は断るのに大変「本当にいいのか?」なんて念を押されてしまう。変な奴だな、と思われるのかな?
2日目は、バーの一角を借りてのCDラウンチとセッション。
マーティン・ヘイズが僕らのことをアナウンスしてくれる。
そして僕らのCDから数曲の演奏を聴いてもらった後で、集まった人たちとのセッション。
いろんな人が現れる。
キャサリン・マカボイとマリーさんも来てくれて、久しぶりにデュオの演奏も聴けた。
そして、中でも驚いたのがサンフランシスコ時代の友人たち。
数年前に再会したサラ・コリーと、こちらはもう30年ちかくになるだろうか、弟のデイブ。
彼とは彼がまだ15歳くらいの時以来だ。
そしてもう一人。同じく20年は会っていなかっただろうか。グロリア・グレッグ。彼女はハンマーダルシマー奏者でサンフランシスコのセッションではいつも一緒だった。
一見怖そうな顔をして真剣にダルシマーに向かっている姿は、最初かなり近寄り難かったが、後年は家に招待してくれるなど交流を深めたものだ。
マーティン・ヘイズがバンジョーを弾くのを初めて観たのも彼女の家だった。
そんな風に今回はアンドリューとのセッションはなかったが、会っていろいろ話をすることはできたし、いろんな人との再会もあったし、それなりにフェスティバルの意味合いは大きなものと確信している。
今、こうしてこの文章を書いている最中、とんでもない雨が屋根を叩きつける音が聴こえたがいつのまにか静かになっている。
こういう日が続くと外へ飲みに行かなければノイローゼになってしまうかもしれない。そろそろ朝晩は10℃を切りそうだし。
パブが大流行なのもよくわかる。そして重要な存在なのもよくわかる。そして音楽も大切な命の源なのもよくわかる。
あれ、晴れてきた。ちょっと久しぶりに町の様子でも見に行ってみるかな。
帰りには濡れネズミになっていないことを祈って。