アルバムを振り返ってみて(後編)

2017年 Gentle Wave / 今 風の中

2019年 Listening to the Outside World / Just A Hunch

この年にリリースしたアルバムは基本2枚をセットとしての考えを持って録音した。Gentle Waveは現在進行形の音楽を、今 風の中は金海孝寛と進藤了彦を呼んで懐かしい歌を中心に、というコンセプト。

Gentle Waveではピアニストの宇戸俊英さんに色付けを手伝っていただき、希花さんのオリジナル曲Gentle Waveや、オールドタイム2曲を含む、ぼくらの世界を堪能していただいた。

ここでもハープ&コンサーティナが大活躍。希花さんはこのアルバムからマンドリンも弾き始めた。

また、アルバムジャケットを開くと、今はもうないが「夢みるぱさり」で撮影したフィドルとコンサーティナの素晴らしい写真を見ることが出来る。

9曲というとミニアルバム風な感じがするが、2枚セットとしてのコンセプトなら「あり」かな、と判断した。

今 風の中は金海君が大活躍してくれてエンジニアから演奏、そして省ちゃんや木田ちゃんの分のコーラスまで担当してくれた。進ちゃんは相変わらずいいフィーリングでドブロを泣かせてくれた。

そこに数曲希花さんも参加してもらうことで、ただ単に昔懐かしいだけではないものに仕上げたかった。

ジャケットのデザインなどは希花さんがやるが、アイディアとして僕はGentle Waveは真っ白の処に希花さん、今 風の中は風が吹いている感じの写真、と云いたいことだけを言った。

金海君にとっては事実上これが最後の録音になったのかもしれない。

Night Walkに於けるマンドリンプレイはどうしてどうして、長年ブルーグラスを演奏していない割にはなかなか鬼気迫るものがあった。往年のジョン・ダッフィーを彷彿とさせるものを感じたのは僕だけだろうか。

そして1年おいてこの年にリリースしたものも2枚をセットで、というコンセプトであった。

Listening…の方は少し落ち着いて静かな、ぼくらの2枚目のアルバムMusic in the Airを意識したものに仕上げている。

選曲も練りに練ってオールドタイム風の曲をハープとバンジョーで演奏してみたり、ビオラを多用したりと、サウンド面でもかなり工夫をこらしたものから、とてもシンプルなものまで時間を少し多めにかけた。

ボーナストラックも含めると12曲。ゆったり聴くのに持って来いのアルバムに仕上がったと思う。

ジャケット写真にはアイルランドで飼っている白猫を使ってみた。もちろん彼らに許可は得ていないが。

もう一つはチェロ奏者とのトリオ。

アレック・ブラウンはアメリカ、アーカンソー生まれでアイルランドに住むチェリスト。

希花さんがチェロなんていいんじゃない?と言い出したことがきっかけで、FBやネット検索などを通して「なんか面白そうなやつがいるからコンタクト取ってみようか」と言ってなんの前触れもなく連絡した。

彼は新手の詐欺かと疑ったらしい。最初は。でも、もはや僕らの演奏もYouTubeなどで見ることが出来るし、FBで共通の友達を見つけたり、と、そんなことをしている間にこれは信用できるかもしれない、と連絡をしてきた彼を、最初どんな奴かまだ分からなかったので、1週間だけ日本に呼んで一緒に演奏してみた。

2017年の12月に寒い中、サンダルを履いて現れた男はとても静かで、きれい好きだし、僕には慣れた感じのアメリカの田舎から出てきた青年、という感じであった。

何回かのギグで、多くの人からこの3人でCDを作ってほしい、との要望があり、僕らにとっても新しい挑戦であることなどから制作を決めた。

他なる彼の特徴としては、アメリカ南部の出身という事で、オールドタイムやブルースにも、僕との年齢の差はあれど、なかなかに共通するものがあった。

そんなこともあり、ボーナストラックではレッド・ベリーのIn the Pinesを一緒に歌い、僕がそのままPolice Dog Bluesを演奏し、Listening…とはまた全然違うものを作り上げた。

このように2011年から7作品、セットのものが2作品なので厳密に云うと9作品をこの9年間作ってきた。

僕も今年70歳になり、いつまで続けていられるか分からないので(多分に言っているだけと思ってください)次なる作品というものも今現在作っているが、もうほぼ出来上がっているので、その次のものにまで手をそめだしている。せっかちなので仕方ないか。

思えばとてもラッキーだった。

70年代に高石氏と出会い、シンガーと共に歌い演奏することを学んだことで、ショーン・テリルやスーザン・マッケオンなどというような筋金入りシンガーとの共演も果たし、楽曲の中にある魂を本当に良く聴き取ることで伴奏者として認められ、カーターファミリーとの生活や、アンドリューやベグリー達との生活を体験し、そこに希花さんも引き込むことによって彼女も真の意味でのミュージシャンに成長していった。

こういう事がこの音楽にどれだけ必要な事かを僕は身をもって体験している。

簡単に教えられるものではないが、少しだけ云えるとしたら、先ず聴くこと。それも先人たちの演奏、歌にとことん耳を傾けること。そうして悩み悩んで自分らしさを身に付けていくこと。できれば世界に出ていくこと。

今は難しいけど、多分このままでは世界が終わってしまうし、いつかはまたでかけていける社会になるだろう。

希花さんは命の危険にさらされてブレンダン・ベグリーの漕ぐボートで真っ暗な大西洋に出た時、感じたことのないアイリッシュミュージックを体感しただろう。

僕がジョー・カーターの庭先で辺り一面が明るくなるくらいの蛍の大群に囲まれた時、真のオールドタイムミュージックを感じたように。

そんな気持ちを持ち続けながら、これからもアルバム作りに励んでいきたいものだ。