昭和の文具店

ふと見つけた、何だか分からない…店だか、住居だか分からない佇まい。

恐々外から覗いてみると、奥の四畳半くらいの部屋で、昭和風情の親父がネコを抱いて炬燵に入っている。

しばし、外から昭和初期の電話機やふえき糊の入れ物や、なんか懐かしいけど何だったかな?と思うようなものが山積みになっている棚を見る。

一旦そこで数歩足を進めてみたが、やっぱり気になって戻った。

そして、意を決して中に入ってみたら、さっきの親父「あー、今電気つけますから」と云いながら出てきた。

「あ、いやいいですよ」というと「いや、忘れてたんで」と言って、やにわになんか戦時中の写真の一覧みたいなものを出してきた。

「いやー、今の人は戦争のことなんてもう忘れてしまったけど…」などといいながら、一生懸命語り始めた。

「ところで何年うまれですか?」と訊いたら「わたし昭和25年5月です」と云うではないか。

「あ、じゃぁ、僕の方が年上だ」というと親父は少し驚いた様子。完全にもっと若いと思って、こりゃあ、平和ボケの若い奴に戦争のことを伝えなくては、と思ったに違いない。

確かに親父、頭の毛がほとんど無かったし、しわくちゃ(失礼)だったし、そう思っても無理はない。

そこから更に戦争の話になって、止まらなくなった親父をなんとかかわして、それでも話を合わせて約20分。

なかなか濃い店だった。

数々の自慢のものがあっただろうが、その中でも最も自慢の物は、東京オリンピックの年に作られた自転車。それも親父、今でも乗っているらしい。

そして多くの人から売ってくれ、と云われるらしいけど絶対に手放さないとニコニコしながら嬉しそうに言っていた。

また行くかどうかは分からないけど……多分行かないだろうなぁ。

でも近所だし、きっといつかあの自転車に乗っている親父をどこかでみかけるだろうな。

その時に声をかけるかどうかが悩みどころである。