8月6日 曇り
エニスを出てアンドリューの家があるタラに向かう。ひたすら寒い。そして、何年も変わっていない景色が広がる。
まるで故郷に帰ってきたようだ。僕にとってのアイリッシュ・ミュージック発祥の土地である。
アンドリューが彼のセコンドカーであるメルセデスベンツを軽快に飛ばしながら言った。「今晩ポーラック(バンジョー)がミノーグスで集まろう、と言ってきている」彼の言葉はいつでもセンテンスが短い。余計なことは言わない。
僕も「オーケー」と答えた。
ミノーグスはあの伝統のバンド“タラ・ケイリ・バンド”発祥のパブだ。
8時過ぎ、出かけていたアンドリューから電話が入った。「ポーラックがミノーグスで待っている。おれも後から行く」
店に行くとポーラックがすぐに言った「なんか飲むか?」みんな先ずそう訊く。
僕はカールスバーグ、希花は最近のお気に入り、ホット・ウィスキーをもらった。そして彼が言った。
「もうすぐミーブ・ドナリーもやってくる」
クレアーのフィドラーでアメリカやヨーロッパでもかなり名の通った女性だ。僕も一度
だけアメリカで会ったことがある。
かくしてまたまたセッションの始まり。途中からアンドリューもやってきて1時半過ぎまで続いた。
次から次へと運ばれてくるギネスやホット・ウィスキー、それに大量のサンドウィッチまで。全部オーナーの計らいだ。
アンドリューが言っていた。「最近、ここ10年くらい、このタラですらもなかなかトラッドが聴けないようになって来た。寂しいもんだ」
僕らはこの地に、久々にトラッドの風を運んできたのかもしれない。