8月13日 (最終回) 晴れて涼しい。
いよいよフィークルともお別れだ。そして僕らの旅もここが終わればもう終わったようなものである。
ホステルを出て、エニス行きのバス乗り場まで行く途中、ジョディス・ヘブンを見た、というアメリカ人の若者“ブレイク”と出会った。いかにもカリフォルニアの若者で、とても陽気な男だった。
去年、会った犬もいた。
コーマックとポーラックが千鳥足で歩いてきた。「今からペパーズでやるぞ。来るか?」さんざんやってきただろうに、場所が変わればまた別物なんだろう。
「いや、僕らはエニスに行くから、また来年やろう。元気でな」別れはつらいものである。
ジェリーも通りかかった。
フェスティバル自体も今日で終わりだ。また明日からは、みんな普段の生活に戻り、村は静かになるだろう。
しばし感傷に浸る…。
エニスに着くとブレンダン・ラリシーが待っていた。彼は僕らとちょっとしたビジネスの話もしたくて、なんか高級そうなホテルのラウンジで食事をすることにした。
ランチでサーモンのディッシュがあったのでそれにしたが、タルタルソースの乗ったサーモンは美味しかった。が、しかし、サイドにはマッシュポテトとフレンチ・フライ、そしてパテになったじゃがいも。それもすべて山のように付いている。もう、いもはこりごりだ。
ブレンダンは素晴らしいフィドラーであると同時に、音楽プロデューサーとしても高名なひとだ。
僕らが常日頃言っている、「何をやっても自由だが、基本、トラッドを大切にしなくてはこの音楽を演奏する資格は無い」という姿勢を僕らの演奏から感じ取ってもらったことは本当に嬉しい。
彼とのビジネストークはここでは書かないが、これからもいろんな意味で彼と関われたらそれは素晴らしい事だ。
日本に帰ってからも連絡を取り合う約束をして、僕らはそのままダブリンに向かった。
ダブリンには帰りの飛行機の関係上寄るのだが、いくつかの都会らしい音楽に触れることはできるだろう。
しかし、僕らはやっぱりシンプルでも心温まる田園風景が、羊が牛が、そしてロバが見えてくるような、そんな音楽に恋をしてしまう。
そして、そういう人達が世界中からやってきて、言葉も生活環境も全く違うのに、共に音を紡ぎだしていく。出会いと別れの真ん中に音楽がある。
今回の旅で出会った全ての人に感謝すると同時に、みんなが幸せに暮らしていって、またどこかで会えたら、それがなにより嬉しい。