猫派か犬派か

世の中ではよく猫派か、あるいは犬派か、ということを言う。確かに僕は犬派だった。子供の頃、家には必ず雑種か柴犬がいた。父が犬好きだったせいか…。いや、そういう理由もさることながら、番犬として必要だったのだろう。とに角いつでも犬がいたし、父は毎朝恒例のテニスには必ず一緒に連れて行った。してみると、やっぱり好きだったのだろう。

夏の夕方になると、近くの川に行って洗剤をつけてゴシゴシ洗っていた。沢山の子供がそんな光景を眺めていた。今では考えられないことだ。

でも、猫もいた。猫は勝手気ままに過ごしていたようだ。犬はいつも同じところにつながれていて、犬小屋もあり、散歩も連れて行ったので猫よりも存在が近かったのだろう。

それでも、やはり雑種や柴犬という種類ばかりだったので、いわゆる“お座敷犬”には興味がなかった。そして、それは今も続いている。きれいにカットされて服なんか着せられていると「犬は犬らしくしてろ」と言いたくなってしまう。

朝、走っているとそんな犬をよく見かける。得意気に靴下まではかされてキャンキャン吠えているのを見ると蹴っ飛ばしたくなる。

ところが、先日、いつものように走っていたら、チワワがひとりで座っていた。見るとひもがついていて、いかにも迷子らしく、そして、僕になにかを訴えているようだった。「どうしたんだ?」と訊くと、眼が「迷子になりました」と言っている。そしてぴったりとひっついてくる。本来なら蹴っ飛ばしたくなるが、こいつは違った。

僕は一瞬“とに角連れて帰ろう”と思った。着替えてから新たに飼い主を捜しに出よう、と思ったからだ。しかし途中で糞でもされたら困るな、と思い、交番へ連れて行くことにした。

チワワは従順についてくる。僕の方をチラチラと見ながら。止まると一緒に止まってじっと次の動きを見ている。こりゃ困ったものだ。だんだん可愛くなってきた。

交番を見つけ、お巡りさんに相談してみた。そのお巡りさん「監察はついているだろうか」と手を伸ばしたら、こともあろうに噛みつかれた。そして、僕の後ろで小さくなっている。もともと小さいが…。いや、お巡りさんでなくチワワのことだ。

取りあえず、手続きを済ませて交番を後にしたが、その時もずっと視線を感じた。後になって聞いたが、ほどなくして飼い主が現れて一件落着したらしい。良かった良かった。

これが最近猫派になった僕が久々に面倒をみた犬の話。

そんなこんなもあり、小さい犬でも中にはかわいいやつがいるが、なぜか圧倒的に猫のほうが好きになってきた。

猫を好きになれない人は大体「犬の方が従順でいい」というし、猫を好きな人は「なかなか思い通りにならないところがいい」という。

僕は特にそうは思わない。やっぱり少しは人懐こい猫がいい。だからと言って猫カフェには行ってみようとも思わない。

道を横切ってチラッとこちらを見て、一瞬立ち止まり、なにもくれないと思うや否やサッと逃げていくのがやっぱりいちばん猫らしい。カニカマでも持っていたら食べるかもしれないが、それでもかなり用心深いか、匂いだけかいで逃げるやつもなかなかに猫らしい。

日向で細い目をして丸くなっているときにちょっかいを出すと、迷惑そうに「ニャー」というやつもなかなかに好感が持てる。

そんな感じで、最近はどうやら猫派になってきたようだ。

ま、どちらにしても「The 猫」「The 犬」というやつが好きだ。