2015年 アイルランドの旅 19

久しぶりにショーン・ギャビンとセッションをした。だが、彼の持ってきたアコーディオンはE♭。ギターはチューニングを上げるか、あるいはカポ位置をずらすとかで対処は簡単だ。その場合、ちょっと視覚的には混乱することもあるが。

しかし、フィドルの場合は半音上げてチューニングをしなければならない。こんな場合はほぼ100パーセント、いや100パーセントのフィドラーはそうするはずだ。

だが、希花さんが厄介に思うのは曲が半音上がったことで、通常のキーで演奏されているものと同じ曲に聴こえなくなる事なのだ。

それならばと、通常のチューニングで半音高いポジションで弾いてしまおう、と考える。

普通は無理だ。1曲2曲だったらいけるかもしれないが、10曲20曲どころではない。次から次へと繰り出される曲を見事に半音上がったポジションで弾きこなしていく。

これにはさすがのショーン・ギャビンも舌をまく。さすがにフォギー・マウンテンをG♯で弾けるだけのことはある。

フィドル界広しといえどもあまりいないだろう。

おかげでセッションも無事終えた。

そしてその日、1年ぶりの友人に出会った。去年知り合ったアンガスという男と、名前を聞き忘れたのだがその兄弟、もの静かな音楽通だ。

彼が音楽通ということは会話からも分かるように、クラシックからジャズ、ワールドミュージックに至るまで、幅広く聴いて、その分析たるやその辺の音楽評論家もかなわないくらいの鋭い感性を持っている。

実際、セッションを見ながら飲んでいる人達の中で唯一、彼だけが運指を変えている希花さんのプレイに気がついていたのだ。

音楽だけではなく、広い分野で様々な知識を持った男だ。

そんな彼と、兄弟のアンガスが明日、山に上りに行くけど一緒に行こう、と誘ってくれた。

Croagh Patrick(クロッグ或はクロー パトリック)という聖なる山で頂上に教会があり、360度のパノラマで全てが見えるんだ、と、ギネス片手に熱く語る。

あまりに熱心に誘ってくれるので、一応オーケーしたが、そのための靴も服も持っていない。さて、どうしたもんだろうか。