8月9日、ブリタニーに向かう。もうすでに先乗りしているキアラン君と、彼の元生徒さんたち、ブライアン(コンサーティナ)キリアン(パイプス)共に25歳、そして21歳になったばかりのブライアン(フィドル)この三人の若者を含めての珍道中がこれから始まるのだ。
目指すところはGuemeneという小さな村。ここで彼らと落ち合うわけだが、ここはキアラン君曰く、ブリタニーの最もブリタニーらしいところのひとつであり、ここに来なければブリタニーに来た、とは言えないくらいの
ディープな場所だ。
その言葉どおり、景色はどんどん今まで見たこともないものに変わっていく。
実際、飛行機から見た海岸線はまるで映画「史上最大の作戦」を見ているようだった。それもそのはず。そこはノルマンディーだったのだ。
それはともかくとして、まず道沿いのお菓子屋さんに立ち寄ると美味しそうなカスタードケーキが目に入った。
日本で売っているものの三倍くらいの大きさで、値段は3分の1くらいだ。思わず「これとこれ」と言いそうになるが、そこは抑えてひとつにした。
これが実に美味しかった。たくさんのひとがフランスパンを抱えて店から出ていくのを眺めながら青空の下でコーヒーとケーキ。
そしていよいよ村に入っていく。なんか連合軍とドイツ軍が市街戦をやっている光景が目に浮かぶような建物が並んでいる。
キアラン君が夏の間にブリタニーで過ごすために借りているアパートに着くとすぐに始まるセッション。
皆それぞれにトラディショナルをこよなく愛し、追求している若者たちだ。プレイにも熱が篭る。
そして、若いのによく飲む。若いからかな。
そして、ここでは当然ワインだ。
フランスはワインが安いと聞いていたが、それは驚きの1ユーロもしないものから始まる。
平均的なそこそこいいものでも2ユーロか3ユーロくらいでひと瓶買えてしまう。なのでアパートでも次から次へとワインボトルが空になっていく。
外に出てみるとこの小さな村にいくつかの商店が並び、パブのようなものとレストランがいくつかある。
ブリタニーはクレープ(ガレット)で有名らしい。こんなことは日本の人の方がよく知っていることだろう。
早速みんなでワインとクレープ。
別な場所に行ってワイン。また別なところでワイン。隣のよろず屋さんのような、何でも置いてある店に入っても、奥からおやじさんがワインを持ってきてくれる。
ちょっとしたワイン責めだ。
でも今回のブリタニーはワインを飲みに来たわけではない。
僕にとっての大きな目的はギタリストのNicholas Quemener(以下ニコラ)に会うことだ。
キアラン君のソロアルバムでもギターを弾いていたが、そのプレイにはだいぶ前から注目していた。
いわゆるアイリッシュ・ミュージックに於けるギターというよりも、もっとブリタニーの音楽、ブレットンの独特な響きを持っている人なので、あえていままで名前は出していなかったが、とてもいい音を出すギタリストだ。
彼に会ってさらにその素晴らしいプレイに魅了されたが、彼がDADGADを使っていることは意外だった。
その響きはDADGADに聞こえない、言葉で表すことはむずかしいが、彼の醸し出す独特な音だ。
また、彼の住んでいるところはほとんど森で、その広さは京都で言ったら…「平安神宮」くらいの広さは優にあるだろうか。
そんな中でテーブルを囲んでみんなでまたワイン。
まさにこの景色から彼の音が生まれてきているんだな、と思えるような空気と時間が流れている。
今回の旅についてはまたコンサートなどでお話しするので、あまり長い文章は書かないが、希花さんがワインの飲み過ぎで赤い顔をして、いい写真をいっぱい撮ってくれたのでそれをいくつか載せてみることにした。
というよりもちょっと飲み疲れて横着をさせていただこうと思って……。