今年のフィークルでは久しぶりにパット・オコーナーとのセッション・ホストも入った。
彼と初めて会ったのはいつだったろう。‘98年くらいだっただろうか。
その時のことは2011年のアイルランドの旅で既に書いているし、Irish Music その45ではパットの子供の頃のフィドルの練習の様子なども書いた。
愛すべきクレアの筋金入りフィドラーだ。
この日、夏の恒例の行事と言っていいだろうか、古矢、早野コンビがはるばる日本からフィークルめがけて来ていた。
彼女たちはアイルランド音楽を演奏している僕達よりも、よっぽどこの国のこと、特に文化や芸能に詳しい。
そんな彼女たちにとっても、このフィークルは特別な場所だ。そしてできれば僕らが演奏している時に、このクレアの音楽とギネスビールに浸っていたい、と考えている。
そんな彼女たちと一路フィークルに向かう。
パット・オコーナーとのセッションは9時半からの予定だが、彼はすでにその前に別なところでやっているので、そんなに遅くまではやらないだろう、と思いきや、例によってとどまるところを知らない。
ゴールウェイのセッションとは違って、淡々と、そして徐々に気分を高揚させていくような味わいの深さを感じる。
ゴールウェイはあまりに観光客向けになってきてしまっているのだろうか。いいミュージシャンもいっぱいいるが、聴く側の姿勢もやはり普通の観光客と、この音楽を求めてきている人では、それは違って当然かもしれない。
アンドリューもちょっと顔を出すが、“ごきげんさん”でしばらく聴いて「明日9時からペパーズに来い。待ってるぞ」と勝手に言って“ごきげんさん”のままどこかへフラフラ出かけて行った。
結局パットとのセッション、1時過ぎまで職務は果たしたが、パットはケロっとして、もう少しみんなのおつきあいをするよ、と言っていた。
パットを取り囲んでいる人たちはなかなか帰りそうにない。
この日の「困ったちゃん」は希花さんの横でフィドルを弾いていたおじさん。なんか偉そうにしているが、全く曲を知らないらしい。指だけは動かしている“よう”に見えるが実際は全然違うものを弾いている。
希花さんも初めて「出て行ってくれない?」と言いたかったらしい。そんなやつに横で弾かれたら確かに困るのだ。
僕の方までは聞こえてこないくらいの音量だが、横の者はたまったもんじゃない。
しかし、「出て行け」というのはキャサリン・マカボイかアンドリューでないとなかなか言えない。
いや、アンドリューは態度でガンガンに攻めまくるタイプかな。やはり、どんなセッションにも礼儀は必要である。
それにしてもパット・オコーナー、素晴らしいフィドラーだ。
さて、アンドリューが言っていた次の日のこと。まぁ、これでしばらく彼とも会えないかな、と思うとやっぱり行くしかないと思い、また出かけて行った。
古矢、早野コンビもその晩のタラ・ケイリ・バンドの伴奏によるダンスを楽しみにしているし。
こちらのセッションではアンドリューも大活躍。カレン・ライアンや、キーボードのピートも一緒だ。
アンドリューは僕らを見つけると、嬉しそうに「ここはじゅんじ。ここはまれか」と他の人が座らないように椅子を用意する。
彼の大活躍はそこから始まるのだ。いつものように自分のお気に入りのミュージシャンをできる限り自分の周りに固める。
“困ったちゃん”の付け入る隙を与えないのだ。そして大爆発。
この日、もうひとりの大爆発はシェイマス・ベグリー。酔っ払いの困ったちゃんではあるが、さすがにいい歌声と、クレアとはまた違うリズムで聴くものを魅了する。
ケイト・パーセルもいい歌声を聴かせてくれたし、驚いたのはランダル・ベイズが現れたことだ。
向こうもさぞ驚いたことだろう。もう、18年ぶりくらいだ。
アンドリューのおかげでそんな再会も果たせた。
そして、なにより古矢、早野コンビにも感謝。
残りの旅、どうか安全に楽しんでください。そしてたくさんのおみやげ話を持って帰ってください。
僕らは明日からしばらくブリタニーに行くので、コラムはちょっとの間お休みになるかもしれません。また帰ってきたら報告するつもりでいます。