Irish Music その113

The New Land  Waltz

ロード・アイランド出身、現在はケイプ ブレットンに住んでいる楽器製作者Otis A Tomasのペンになるこの曲。実を言って僕は何年も前に聴いたことがある。省ちゃんが「こんな曲知ってる?めちゃアイリッシュっぽいんだけど。これトラッドか?」と言って弾きだしたのがこの曲。僕は「いや、聴いたことないけど、トラッドではなさそうだね。誰かが作ったんじゃないかな」と答えた。

正直、全くアイリッシュの雰囲気は感じなかったし、トラッドの曲調でもなかったが、日本では結構多くの人が「アイリッシュっぽい」と言って演奏していたようだ。それだけに反発して、どうも好きになれなかった曲だったが、今年(2017年)のアイルランド、キャスルアイランドのセッションで、ジャッキー・デイリーと演奏した時に彼が「君たちこの曲やる?」と言って弾き始めたのがNew Landだった。その日は、彼の作品の多くを僕らが知っていて演奏したことにとても心を開いてくれたようで、半分眠っている彼が嬉しそうに弾きだしたのだ。僕は素っ頓狂な質問をしてしまった「この曲もあなたの書いたもの?」彼は「いや、違うよ」と言いながら「ここ、こんなコードを俺は使っている。アコーディオンの特性としてこういきたい」などとゆっくり話しながら何度も何度も繰り返し弾いた。

それはとても美しいものだった。やってもいいかも、と思ったのはそれを聴いてからだ。

そのあと、ブレンダン・ベグリーの家に泊めてもらい、朝早くに散歩をしてから部屋に戻ると、ふと1冊の本が目に入った。「Fiddletree」というタイトルのその本。書いた人はOtis A Tomas

ページをめくると、彼が造ったフィドルや様々な楽器の写真が目に入った。自分でカットしたメイプルの大木1本から多くの楽器を作った話も。さらに進むとThe New Landという項目が現れた。他ならぬこの曲の楽譜と、書いた時の思い出などが綴られていた。彼が引っ越したケイプブレットンのSt.Annsのあたりの景色からインスパイアされたらしい。ここが自分の新しい土地だと感じた彼が「メロディが浮かんだのは確か…9月のいつ頃かよく覚えていないけど….」と語っている文章も載っていた。それ以来、これはこの曲をやるいいきっかけになるな、と思いレパートリーに取り入れた。キーはもともとFで書かれているが、Dで演奏する人も多いそうだ。