もう18年にもなる?もうすぐ命日。
思えば18の時に京都産業大学の学食で出会ったのが最初。
「あのー、バンジョーについて教えて欲しいことがあるんですが…」彼が最初に僕に対して発した言葉だ。
それからは何かにつけ、行動を共にしていた。
なぜ、もうすでに彼については一杯書いているのに急にまた…という感もあるが。
昨日、電車の中である初老の(というか、同じくらいの歳格好)男性が、見事なアイビー・ルックで向かいの席に座っているのが気になった。
髪の毛がかなり後退していてテカテカと光るおでこに、ストライプのボタンダウン。オフ・ホワイトのコットンパンツに、その日は楽に買い物をしたかったのか、ジョギングシューズ。
そこに大きな紙袋。その紙袋には「FUKUZO」と書いてある。
あー、省ちゃん横浜に来るとよくフクゾーに行っていたなぁ、と心の中でつぶやいてしまった。
ある時の話。
意気揚々とフクゾーに入っていった彼。僕は外で待っていた。
やがて、彼がげんなりした表情で、入っていった時とは全く違う足取りで出てきた。
そして言った「あ~ケツまで汗びっしょり」
関西人の彼にとって関東の感じ、どこか鼻高々な雰囲気は性に合わないのかも。
それからも何度もフクゾーには行っている。
僕はいつも「省ちゃん、パンツの替え持ったか」と訊いていた。
省ちゃんは「大丈夫。オシメはいたから」と言っていた。
また、ある日、同じく横浜の元町を歩いていた時、省ちゃんがふいに何かに引き寄せられるように店に入っていった。ありゃ、こんなところにこんな店が…と、ぶつぶつ言いながら。
そしていつもと同じように僕は外で待っていたが、見るからにハマトラ、トラッドを売り物にしている店のようだった。
やがて、またまたぶつぶつ言いながら出てきた「わしゃみのさんが大嫌いになった!」
みのさん、と云うのは彼の大学時代のバンド、マヨネーズでベースを弾いていた箕岡さんのことだ。
ことの成り行きはこうだ。
店に入るとびしっと決めた男が洒落た口調で「いらっしゃいませ」と言った。その男がみのさんにそっくりだった。
省ちゃんはおもむろに「あのー、グレイのピンチェックに合わせるネクタイを探しているんですが」すると店員のその男が「え?グレイのピンチェック?」と有りえないというような口調で言ったかと思ったら「あ~あ~」と少しあきれた馬鹿にしたような態度で言ったらしい。
カチンと来た省ちゃんはすぐ「結構です」…とは言わなかったらしいが、みのさんは嫌いになったらしい。
買い物大好き、買い物上手の省ちゃんには沢山良い想い出もあるんだろうけど、その分苦い想い出もあるんだろうなぁ。
買い物はあまりしない僕だが、何かを買うときには結構迷う。
省ちゃんはそれ以上に迷う。
迷いに迷っている彼に「やめといたら。もし帰り飛行機事故に遭ったら、あー、やっぱり買わんで良かったと思うで」と云うと彼は間髪をおかずに言った。
「いや、やっぱり買うわ。買っておけばよかったと思いながら死ぬのは嫌じゃ」