Back to Banjo 詳細 前編

ライナー・ノーツに書き切れなかった解説をここに掲載します。

Back to Banjo このタイトルに決めたストーリーについては、既にアルバムで書いたのですが、もう一つ候補が有りました。それは「Return to Banjo」

これを教えてくれたのはTaisukeでした。彼曰くBack to Banjoはそのストーリーが有れば変ではないけど、そのストーリーを知らなければ少し変。変というか、ワイドな意味合いが無くなる。おそらくその状況下にあって、バンジョーに戻ろう、という解釈と、さぁ、またバンジョーに戻ってみるか、というニュアンスの違い、という事。

おー、そうか、なるほど。難しいもんだ。でもここはその状況下に於いてその言葉から発したことなのでBack… で行っても大丈夫だろう、という結論に達しました。タイトルを決めるのもなかなか大変です。

ところで、表紙の写真についてここに書かせていただきます。

よく、あちらこちらの店で猫のキャラクター付きの商品を見かけては「何でも猫を使えば売れると思いやがって!」なんて文句を言っていた僕ですが、とうとうその波に遅ればせながら乗ってしまいました。

でも、ストーリーはこんな風に始まったのです。

2019年、夏の早朝、ウォーキングからの帰り道、近くの駐輪場あたりから子猫の鳴き声が聞こえてきました。

何気なしに覗いてみると、生後間もない子猫がじっとこちらを見ています。

ちょっと腕を伸ばしてみたら、すんなりと手の中に納まってしまいました。

困ってしまってワンワンワワンではなく、ニャンニャンニャニャンです。

取りあえず連れて帰り、ぬるま湯で身体を洗ってみました。

まっちゃ色の水がしたたり落ちて、血尿が出たかとビビリましたが、どうやらかなり汚れていたようでした。

すぐ希花さんに連絡をいれました。

「こんなのが落ちていたんだけど、どうしたらいい?」と。

そして取りあえず、動物病院で何かしらの処理をしていただきました。

その後、連れて帰ったのですが、かなりよくできた子猫で、泣かないし、用意したトイレでちゃんと用を足すし、とても大人しく、借りてきた猫のような猫です。

そこで何気なし、置いてあったグレートレイクスのヴァンガードの上に乗せてみました。

ライナーの表紙、白黒の写真が最初のショット。

少し恐れおののいている表情が伺われるのは、これの皮にされるんではないか?と思ったからでしょうか…てなわけないか。

表紙のショットは少し落ち着いて周りを見回すような仕草。

このCDのことを考え始めたのとほぼ同時に「そうだ!あの時の写真」と思ったのでした。

なお、現在この子は友人のアルマジロ君の伴侶となっています。

相変わらずとても大人しく、人当たりもよく、どこへ何時間連れて行っても何一つ文句も言わず、巷の噂では「飼い主より良くできた猫」と云われております。Got Banjo?

1 Got Banjo?

  Cripple Creek / Devil’s Dream / Cherokee Shuffle

クリプル・クリークはバンジョーの基本的チューンとでも云おうか、あまりマジに弾くこともないくらいに知られ過ぎてしまっていると感じるこの曲から敢えてスタートしてみた。久しぶりに弾くと、あ、やっぱりいい曲だな、なんて思ってしまう。デビルス・ドリームは、敬愛する故ビル・キースのスタイル。この曲はアイリッシュ・チューンのMason’s Apronと同系列のものと思われる。1984年にワシントンDCのグループ、Grazz Matazzのフィドラー、マイクと、二人でよくこの2曲を交互に演奏したものだった。チェロキー・シャッフルはアイルランドでも人気のある曲でジャムでも何故かたまに出てくる。美しいメロディーをもった曲だと思う。ロスト・インディアンというイースト・ケンタッキーに伝わる古いフィドル・チューンと同系列の曲。なお、このひとくくりのタイトルはCMの「Got Milk?」から取ったものです。この表現もちょっと古いな、と言われましたが、ま、古い人間ですから仕方ないかな。言葉も時代時代で変化するものですね。

2 Good Time Charlie’s Got the Blues

グッドタイム・チャーリー・ゴット・ザ・ブルース、日本語タイトルで「オールのない舟」というのもあるらしい。ダニー・オキーフ1967年の作品。グッドタイム・チャーリーとは一般的には「放蕩者」とか「気楽な男」とかそんな意味で使われるらしい。古い言葉だろうけど。この街に暮らすのは時間の無駄だと、多くの友人が街を出て行った。ある者は貨物列車で、ある者は飛行機で。確かに彼らは正しい。そこで勝者になる奴もいるし、敗者になる奴もいる。俺だっていつまでもこうしてはいられない、と思う事もあるけど、このままでも気楽でいいか。閉塞感と将来への不安。面白いことに歌詞の中では「もう俺も33にもなるし…」という部分が出てくる。33歳、僕はソフト・シューズを出した少し後だったか…。人生半ば。いろいろ考え始める頃か。そしてあきらめと自己肯定の中でまた歳をかさねていく。

3 Few Bob / The Harp and the Shamrock

ヒュー・ボブはあまりポピュラーな曲ではないが、綺麗なメロディーだと思う。ひょんなことからこんな曲を見つけるのは非常に面白いことだ。ハープ・アンド・シャムロックはとてもポピュラーな曲。これも綺麗なメロディーを持った曲だと思う。このようなGのホーンパイプは5弦バンジョーにとてもよく合うものだと感じる。

4 My Love She’s But a Lassie Yet / Mississippi Sawyer

マイラブ・シーズ・バット・ア・ラッシー・イェット、これは古いスコットランドの曲だが、ここではビル・キースの演奏から学んだメロディーをクロウハンマーで演奏してみた。かなり難易度が高く、小林氏は「頭のてっぺんが焦げそう」という実に的を得た表現をした。確かにそれくらいに複雑な右手と左手の組み合わせになっているかもしれないが、僕自身がメロディックスタイルからアレンジしたものなので仕方がない。原曲はかなりシンプルだ。ミシシッピー・ソウヤ―はかなりポピュラーなフィドル・チューン。これも一見シンプルそうに感じるがそこそこ難易度は高い。

5  Boyne Water / A Minor Breakdown

ボイン・ウォーターはAllison De Grootの演奏から学んだ。いろいろ調べてみると結構有名な曲で歌詞も付いているようだ。なかなかいいメロディーだな、と思う。マイナー・ブレークダウンはGreen Brier BoysのBob Yellinが書いた、とても東洋的、或いは中東的な曲。それもそのはず、彼は作曲当初まだタイトルを決めかねていて「The Mount Sinai Breakdown」と呼んでいたそうだ。実際はもう少し、というか「かなり」ともいえるくらいに早く、そして高いキーで演奏されているが、ここでは前曲とのかみ合わせを考えて少しペースを落としてみた。長年お気に入りの曲のひとつだ。

余談だが、彼の使用していたバンジョーはGibson RB-4であり、同じくバンジョープレイヤーのRoger Sprungのアドバイスで1958年に$125で購入したもの、という事らしい。

6  La Bruxa

ラ・ブルハ、これは「魔女」というとても官能的な曲だ。ガリシアのバンドMilladoiroのメンバーAnton Seoaneの作品。初めてこの曲に出会ったのはJody’s Heavenのレコーディングの時だった。まさか僕自身、この曲をバンジョーで演奏するとは思っていなかったが、何気なく弾いてみたところ「なかなかいいかな?」と思い、今回録音することにした。

7  Gold Ring

大好きなジグ。初めて聴いたのは多分Boys of the Loughのレコーディングだっただろう。アイリッシュミュージックを始めるよりもかなり前から知っていたものだ。いくつかのバージョンがあるがこのバージョンが弾きやすかった。2弦をCにしたマウンテンマイナーチューニングで試したところしっかりハマってくれたようだ。どこもかしこも同じようなところを行ったり来たりする、こういったチューンを何百曲も覚えることがこの音楽の醍醐味でもある。また、そのような曲を如何に盛り上げるかを考えながら伴奏をするのも同じくこの音楽の醍醐味である。

8   Calum’s Road / Planxty Fitzgerald

カルムス・ロード、Donald Shawの作品。これはバンジョー弾きのBrian McGrathから学んだ。最初聴いた時はなんかちょっとダサイ曲だな…なんて思っていたが徐々にハマってきた。そういう曲って結構あるかもしれない。プランクスティ・フィッツジェラルドはハープ奏者のMichael Rooneyの曲。この人いい曲を一杯書いている。アイリッシュ・ハープの代名詞ともいえる人だ。これもつい最近East West Fiddlesで録音したが、ここではバンジョーで、また違ったいい味が出たと思う。コード進行も結構きれいな感じ。

後編に続く…