ある歌が最近僕を不眠にさせている。
いやいや、歳のせいもあるかもしれないが、あらぬ時間に眼が覚めて朝まで眠れない。
毎日ではないのでそう大変ではないが。
前置きはともかく、その歌のタイトルは「Hello Vietnam」という。
これはニャンちゃんに教えてもらった歌。
ベトナム行きの飛行機の中でこの歌が流れるそうだ。
特に降り立つ時、この歌を聴くと涙が止まらなくなる、という。
どこかで聞いた話だな…と思ったが、そうだ!スージーさんだ。
何十年も離れていた日本に帰った時、富士山を見て涙が止まらなかった、という話。
彼女の場合は懐かしさと、もうここは自分の帰る処ではない、という寂しさが入り混じっていたのだろう。
さて、この歌はベルギー生まれのベトナム人歌手Pham Quynh Anhという女性が歌っている。( 因みに Johnny Wrightというシンガーが、‘65年に同じタイトルの歌を唄っているが全くの別物 )
内容はこんな感じだ。
「私が生まれた時につけられたこの難しい名前の事を教えてください」というくだりから始まる。
「あなたについて知っていることは、コッポラの映画で飛び交うヘリコプターの轟音。そんな戦争の事だけ」
「いつの日かあなたの土に触れよう。いつの日かあなたの魂を知ろう。いつかあなたに会いに行って言おう。ハローベトナム」
両親の生まれ故郷を知らない難民2世、或いは追われてきた世界中のベトナム人の間で歌われている歌らしい。
どうしても思い出してしまう。
コロンバスデイのお祝いで飛び交うブルーエンジェルスの爆音に、大声をあげ、耳を押さえて震えながら机の下に隠れていた若い男の子。
俺、何のために産まれてきたんだろう、と言い残して死んでいったマイク。少なくとも、故郷で死ねて幸せだったと思う。
ボートでの過酷な思い出を話してくれたヴィンさん。何よりも教育が大切だ、と言っていた。
「I Love You」と「新年おめでとう」のベトナム語を教えてくれたミセズ・ホート。海賊から我が子を守るためには、自らの手で子供たちを殺して海に飛び込む覚悟をもってやって来たという。
スイカだったら、いくらでも食べられる、と言っていたルオンは多分アメリカ生まれ。
映画館で「プラトゥーン」を見ていた時、立ち上がって画面に怒号を浴びせていた若い男の子の集団。
因みに、マイクと喧嘩した時に僕が発した言葉なので何と言っていたのか分かる。
とりわけベトナム人との付き合いが多かった僕にとっては、どうしてもふと思い出してしまって眠れなくなるのも無理ないかな。
なんか羨ましくもある。
故郷を想って涙する。そして、帰りたいという気持ちが一杯湧いてくる。
僕はアメリカに居た時、そんな気持ちになった事が無かった…と思う。
多分それは、いつでも帰れる恵まれた環境に育っていたせいもあるんだろうなぁ。ここでダメだったらもどりゃいいや、みたいな。
「俺はベトナムに産まれた事、後悔していない。どうせ死ぬんだったらベトナムで死にたい。美しい国だぞ」
別れの時そう言った彼の事をどうしても忘れることができない。
今、彼は故郷の土に帰り、この歌を聴いているかもしれない。
今、僕は日本でこの歌を聴いている。