Irish Music その27

今回はブルーグラス界でも比較的よく演奏されるIrish Tuneを集めてみた。その中には、70年代、80年代、ブルーグラスに夢中だった僕等が、IrishやScottishとは知らずに、或いは知っても、それはブルーグラスとして演奏していたものだ。

そんな曲が数多くある。

 

★  Cooley’s Reel

“初めてこの曲を聴いたのは、もしかするとCountry Cookingかも知れない。ギタリストのRuss Barenbergが弾いていた記憶がある。アイリッシュのセッションでは通常この後にWise Maidが来るが、ブルーグラスでは、それぞれが思い思いのソロを展開して1曲で終わるのが普通だ。まだ、若かった僕等はこれがJoe Cooleyの曲とは知らずにブルーグラス独特の通称“ドライブ”という感覚で弾いていた。70年代半ば頃ならきっと“スイング”感覚もあっただろう。後にアンドリュー・マクナマラと出会った時、彼は“Flow”という言葉を使っていた。“川の流れのように”というのだろうか。彼は美空ひばりを知っていたわけではない。

★  Blackberry Blossom

“これは初めてのナターシャー・セブンのLPで僕がソロのバンジョー曲として録音したものだ。アイリッシュにもブルーグラスにも同名曲があるが、これは全く違うメロディを持った曲だ。何故、この曲を選んだのかは理由がある。僕にとってはとても興味深い経験があるからだ。

それは、サン・フランシスコのプラウ・アンド・スターズという僕等のバンドのホーム・グラウンドでのセッションに於いてだった。いつものように僕とジャックとケビンがホストのセッションに、Fタイプのマンドリンを持った男が現れた。それだけで僕には、“あ、彼はブルーグラス畑の奴だな”という想像がつく。ジャックが尋ねた。「アイリッシュ・チューンは知ってるか?」すると彼が答えた。「よく知らないけどフェイクできる」彼は彼なりの解釈でアドリブできると言うのだ。ジャックはきっぱり言った。「NO FAKE!」

これはブルーグラスのセッションではない、と言う。少し険悪な雰囲気になったが彼は真面目な顔をしてしばらくおとなしくしていた。さすがに可哀そうに思ったのか、ジャックが「なんか知ってる曲があるか?」と聞くと「う~ん、そうだ。Blackberry Blossomなら知っている」と言って弾き出したのがブルーグラス・バージョン。始まったとたんにジャックが「ブラックベリー・ブロッサムはそれじゃない」とむりやり止めて、やにわにフルートを吹き始めた。明らかに違うメロディだ。僕も両方知っている。3回も4回も目をつぶって続けるジャック。終わってからあまりに可哀そうだったので「僕がギターを弾くからあんたブラックベリー・ブロッサム弾いたらいいよ」と言ったら、彼は喜んでブルーグラス・バージョンを弾いた。ジャックはもうバーの方でギネスを飲んでいた。「ごめんね。ここのセッションはきびしいんだ。メロディを正確に覚えないと参加できないことになっている。ブルーグラスのセッションみたいにフレンドリーではないんだ」彼はその1曲だけで、僕にお礼を言って帰っていった。僕にとっても想い出深い曲のひとつだ”

 

★  Pigtown Fling (Stoney Point)

“1962年 12月8日、カーネギー・ホールでのFoggy Mountain Boysのライブで“Fiddle&Banjo”というタイトルで演奏された曲だ。むかしはギターが入らず、ポーチなどでよくこんなかたちで演奏されたものだ、というような解説で、アイリッシュからするとBパートと言われる方から始まっている。アイリッシュ・ミュージックに関わるまで何も気にしていなかったのだが、(ましてや忘れていた曲だったが)ある時「あれ、もしかすると聴いたことがあるかもしれない」と思い始めてもう一度聴いてみると、明らかに同じ曲なのだ。ブルーグラス畑でもよく知られている曲らしい、と言うアイリッシュ関係者はいるが、それがFoggy Mountain Boysからなのか、それ以前なのかはわからない。どちらにせよ、ブルーグラス畑では多分タイトルはFiddle&Banjoになっているだろう。

★  Earl’s Chair

“時々ブルーグラス畑でも演奏されることがある、という程度の曲だがコード進行についていろいろ考えられるので面白い。この曲をセッションでやる時、先ず最初のコードを何にするか。Bm|BmかG|Gか。或いはBm|Gか。G|Bmといのはあまり良くないだろう。BパートではA/Bm|A/Bm|もありだがEm/Bm|Em/Bm|もありだろうし、Em/Bm |Em/D(F#bass)|もありだろうし Em/D(F#bass)|G6/Bm|A/G|D(F#bass)も面白いかもしれない。でも、そんな時考えるのがベースの進行だ。もし自分がこの曲でベースを弾いていたとしたら、いちばん気持ちよく進む音を選びたい。その上、あくまでリード楽器奏者のこだわりについても無視するわけにはいかない。究極のところ、いつも僕が思っているように、全ての曲のメロディを知らなければ、伴奏はただの迷惑になるだけだ。ブルーグラスは多分にジャズの要素も含まれているので、自分なりのリックも要求されるが、そこでもどれだけ基本のメロディを重視しているか、ということも見逃すことが出来ない。この、Earl’s Chairに於いてはブルーグラスの演奏家たちがどんなコード感覚の中でどんなリックを展開するか楽しみだ。そんな意味でこの曲を選んでみた。

★  Saint Anne’s Reel

“これはよくブルーグラスでも演奏されるフレンチ・カナディアン・チューンだ。アイリッシュのそれとは出だしが少し異なることが多い。カナディアン・フィドラーとして有名なJoseph Allardの1930年の録音を聴くと、ブルーグラスで弾かれるバージョンに近い。アイリッシュの曲よりスコティッシュやフレンチ・カナディアンの曲の方がリズムも含めてブルーグラスに近いような気がする。

★   Lord McDonald’s (Leather Breeches)

明らかにLeather Breechesという曲として、60年代からPete Seegerの演奏で聴いていたものだ。ブルーグラス・フィドル・チューンとしても、よく取り上げられる。単調な曲だが、深い趣がある。フレイリング・スタイルのバンジョーでもいいが、僕はよくPaddy Keenanと一緒に演奏した。こういう単調な曲では、どのパートを盛り上げて、どのパートでどういうテキスチャーで伴奏するか、メロディを聴きながらよく考える必要がある。伴奏者の真価が問われる曲のひとつかも知れない。