「アー ユー オープン?」第7話 ユーセフ

  ある日、モロッコ人の若者、ユーセフという男が仕事を求めてやってきた。非常に感じのいい青年だが、経験は全くない、と言う。そのうえ、英語は全く話せない。フランス語だけ。

 取りあえずキッチンに案内して、いろいろな作業をやらせてみることにする。見た感じに違わず、とても真面目な態度だ。

 ところが、未経験ということもあり、包丁の持ち方すらわからない。もちろん菜箸などというものにお目にかかったこともないらしい。

何故、そういう人がレストランでの仕事を求めるのか理解に苦しむところだが、その昔、誰かの書いた本で、正確には覚えていないが「全てはディッシュ・ウオッシャーから始まった」という、移民の話があった。レストランというのが一番手っ取り早いことは確かだ。食事も付いているし、特に言葉というものの壁がある場合には。

 いくつかの調理場における基本的な仕事で彼を試してみるも、まるで話にならない。皿洗いもやらせてみるが、来年までかかりそうだ。(因みにその日は大晦日ではない)仕方がないので、ダイニングへと彼を連れて行った。

 言葉がダメなので、ウエイターは無理だ。残るはバス・ボーイ(テーブルを片付ける役)しかない。

 比較的楽な仕事なので、少し説明して後は任せておいたが、これが悲惨な結果を招くこととなる。

 ほどなくして、ウエイトレスがすっ飛んできた。そして「お客さんが怒って帰っちゃった」と言う。その理由を聞くと驚愕の事実が浮かび上がった。

 ユーセフがテーブルの上のお客さんの食べ残しを食べながら片付けている、ということ。さすがに驚いて、彼を呼び注意するも「Why?」の連発。

 Whyはフランス語でSorryではないだろう。

結局、彼には何が悪いのかわからないようだったが、もしかしたら彼の生まれた国では普通に行われている行為なのかもしれない。しかしいい加減な憶測は誤解を呼ぶ。彼が特別だったのかもしれないのだ。

 とにかく即刻辞めてもらったが、次の朝、またやってきて「Help Me」とくいさがった。その気丈な姿勢はとても大切だが、自分に向いている仕事を探す努力を惜しまないことも大切なことだ。