ローデン・ギターひとり談義

  前回、ローデン・ギターに関して「ローデンにしびれるまで」というレポートを書いた。クラシック・ギターから始まって、国産のどこ製かもわからないギターを質屋で購入したりしながら初めてマーティンD-28を手に入れて…と、60年代、70年代、そして80年代を思いだしてみた。

前回のコラムでは詳しく書かなかったが、ローデンを初めて手にしたのは94年だったかもしれない。

今では存在しないモデルだろうか。スプルース・トップのマホガニー・ボディだった。S-7というラベルが確認できる、ボディの大きい、カッタウェイでないモデルだったが、実に深い低音と、それでいて高音の美しい響きがなんとも言えず豪華なギターだった。因みにこのギターにはピックアップは付けなかった。

記憶ではGryphonというカリフォルニアのパロ・アルトにある楽器屋さんだったと思う。このギターは現在高橋創くんの手元にあるはずだ。

そして、これも恐らくとしかいえないが、それから1年ほどして、ミシガンのエルダリーという楽器屋さんのカタログで中古のローデンLSE-Ⅱという機種を見つけた。

少し小さめのボディが薄く、カッタウェイで、ピックアップ内蔵のモデルだった。しかも破格の値段だった。それも当時だから、ということだが。

僕は現物を見ていないにも関わらず迷うことなく注文した。果たして結果は…ジャカジャン。

そのギターは僕を、アメリカやアイルランドに於けるアイリッシュ・ミュージックのギタリストとして不動の地位へと導いてくれた。

当時、まだジョン・ドイルやドナウ・ヘネシーなどの名前が世に出ていなかった頃、僕はミホー・オドムネィルやザン・マクロード、マーク・サイモス、ダヒ・スプロール、ランダル・ベイズ等のプレイに耳を傾け続けた。

95年の夏にはサンフランシスコのセッションに於ける中心人物として、遠く東海岸、またアイルランドまで名前が知れ渡ってきた。

そこに現れたのがジョン・ヒックスだ。同じタイプのローデン・ギターを縦横無尽に弾きまくっていた。その強烈なキャラクターから生み出される音は未だ健在だ。というよりますます激しくなりつつある。

日本のアイリッシュ、とくにギタリストが彼の存在を認識していない、というのは考えられないことだ。

僕は迷わず彼と交流を図った。彼は自分とは違う僕のスタイルに食いついてきた。そうしてお互いの音楽について語り合い、ツイン・ギターというアイリッシュではあまりないものを楽しんだ。

彼のローデンはシダー・トップでマホガニー・サイド&バックのものだったろうか。そのギターはイタリアでワインを飲み過ぎた後、道で寝ていたらトラックに轢かれてあえなく最期を遂げたそうだ。実に彼らしい。いや、実に彼のギターらしい。今現在は0-32Cを所有しているようだ。

ローデン・ギターとしてはリチャード・トンプソンが弾いていたものも、素晴らしいものだった。

ドナウ・ヘネシーとはよく一緒になったので、大いに語ったものだ。彼はその時点で、すでに5本のローデンを弾き潰した、という噂があったが、それについて確かめるのは忘れていた。

彼の弾き方を見ればそういう都市伝説が生まれるのも納得がいく。

ジョン・ドイルについては、ソーラスを一緒に観ていたスティーブ・クーニーが「あいつは6弦にベースの弦を張っていたけど、いまはどうかな」と言っていた。因みにその時はタカミネをつかっていたようだった。

僕は今現在、LSE-Ⅱ(トップがシトカ・スプルース、サイド&バックがインディアン・ローズウッド)F-32C(シダー・トップ、サイド&バックがマホガニー)O-32C(スプルースとローズウッド)F-32C(スプルースとローズウッド)の4本を所有している。

ローデン・ギターは僕にとってベストではあるが、勿論音の好みやスタイルの好みはある。

ハイポジションの弾き易さのためにはカッタウェイは必須条件だ。ピックアップは内蔵されていればそれに越したことはないが、シダー・トップのF-32には中川イサトさんの紹介で大阪の三木楽器の方に後付していただいた。

後の2本はすべて内蔵されているものだったが、(中古のため元のオーナーが後付したもの)これも購入時に緻密にチェックしないといけない。また、アンダーサドルのものは、各弦のバランス取りが難しい。

僕は必ず後から自分でサドルを作るので、その辺は重要なポイントになる。ローデンのもう一つの選択ポイントは、そのネックの幅だ。ナットのところで45mm。これは僕にとってベストだ。

LSE-Ⅱのネック(S-7も同じく)は45mmだったが、後年ほぼ同じはずのモデルのネック幅が変わってしまった。

これは、ジョージ・ローデン本人が型紙を失ってしまったので、僕の物を彼の工場に送り、彼がそれを基に新たに作ったSE-32というモデルだ。ネック幅は43.5mmに変更されていて、そのわずかな違いが僕にとっては納得のいかないものになった。

きっと、多くのフィンガー・ピッキング・スタイルのギタリスト達から要望があったのかもしれない。

様々なモデルを見たが、今僕が一番気に入っているのはF-32Cということになるだろうか。その大きさ、胴の厚さ、ネックの手触り、表板とサイド&バックの材、全てにおいて完璧と言える。

但し、このモデル、元々ピックアップは付いていないので、付けるか否か、それは自分で選ばなくてはいけなくなるのだが。

他人にとってどうでもいい話ほど長くなりやすいのでこの辺で。