2016年 アイルランドの旅 16 フィークル

今年もフィークルにやってきた。相変わらずの景色が嬉しい。今日から2日間弟分のアンドリューと演奏する。

ここにある4つのパブのうち、一番奥(反対から来れば入り口)に存在する、ペパーズ。そこが今日のアンドリューとの演奏場所だ。

フィークルも、2011年から必ず二人で来るようになっているせいか、行き交う人々への挨拶に忙しい。

ヨーロッパ各地や、もちろん日本からも沢山のひとが訪れる。が、しかし、今年はエニスでフラーキョールがあるのでさすがに遠い日本からここと両方に来る人は少ない。

アイルランド最大の音楽フェスティバルだが、それだけに半端ではない人の数で、ぼくらは東京の電車で十分経験しているので、もういい。

てなわけではないが、小さなエニスの街は大混乱になるだろう。ジョセフィン・マーシュも、その期間家に泊まったらいい、と言ってくれているが、ま、そのときに考えることにしよう。

とりあえず、ペパーズのオーナーと話をまとめて本日の宿泊地に向かう。今回はミュージシャンのために特別に個人宅が用意されていた。

といっても、ほとんど通常のB&Bと変わらない感じで、「朝はフル・アイリッシュ・ブレックファーストでいい?紅茶?コーヒー?何時がいい?」と矢継ぎ早に質問が飛んでくる。

「この前はジョニー・マッデン(言わずと知れたチェリッシュ・ザ・レディースの)が泊まっていたし、ミュージシャンがよく泊まるのよ」とニコニコしてお話ししてくれる彼女の子供たちも、まだ小さいのに荷物を一緒に運んでくれたり、本当にいいファミリーだ。

しばし、緑に囲まれた素晴らしい家で景色を楽しんで演奏場所のペパーズに向かう。

珍しくアンドリューも時間までには来ていた。が、始めるまでにかなりの時間を要する。

まず、飲み物を僕らの分も含めてオーダーし、椅子を並べ替える。完全に自分のお気に入りのミュージシャンで自らが囲まれるようにする。

僕、アンドリュー、希花の順に座ると「後でアイリーン(オブライエン)が来るから椅子をひとつ残しておく、と誰も座らないようにしておく。

ピリピリしたセッションだが、やっぱり彼に認められた者でないと、このセッションにはなかなか参加することができない、というのもひとつのセッションの形であるのかもしれない。

もちろん、ここにやってくる人はそれなりのレベルの人から初心者まで、多種多様であるが、なかにはそれなりのレベルを装って、実際には早くいなくなってほしい人が現れるケースもある。

そんなときにはハッキリとそう言える人が必要かもしれない。

夜も更け、だんだん参加していた人間が消えていくと、ますます激しく「のりにのった」演奏を展開する。

もうこうなったらアンドリューの独壇場だ。だが、こちらもそれを盛り上げるだけのものは持っている。

ほとんど僕ら三人の趣味の世界に達しているところにアイリーンの登場だ。それでさらに激しさも増す。

希花にとっても数年前は恐れていたアイリーンだが、完全に一目置いてくれている様子がわかる。

僕らにとってもアイリーンとアンドリューという組み合わせは極上だ。

気がついたらとっくに2時半を回っている。5時間が経過しているわけだ。これがフィークルの初日。

目の前に置かれたありあまる量のグラスとアンドリューの笑い声、どこまでも力強いクレアのリズム、それが僕にとってはこのペパーズ、強いて言うならばフィークル、そのものだ。