2018年アイルランドの旅 28 エニス リムリック ブロスナ

825日(土)晴れ。昨夜聴いたオールドレコーディングがまだ頭の中を巡っている。

昨日も一昨日もそうだったが、断続的に強い雨が降る。そしてあっという間に太陽が出る。今日も西に移動するので、きっとどこかでそんなことになるのだろう。

そうなると美しい虹を見ることができる。

結局エニスへの道のりで雨が降ることはなかった。

エニスでノエルと別れたのが7時過ぎ。今日はゆっくりして疲れを取ろうと思っていたが、来ていることだけでもアンドリューに連絡してみた。

すると「あ、俺も今エニスに向かっている。ノックスでシボーン・ピープルスとコンサーティナのHugh(ヒュー)とでセッションだから来い」と誘われてしまって、着替えもせず出かけた。

コンサーティナのヒューはこれまた素晴らしいプレイヤーだった。

シボーンにもお父さんのお悔やみを言うことができたし、10時にお開きかな、と思ったがアンドリューが「まだ寝ないだろ?もう一軒ケリーと言うパブでやるから行こう」と言ってきかない。

結局もう一軒付き合って、戻ったらもう2時近く。お腹は空いたが、有り余る量のハイネケンとギネスでもう意識朦朧。

アンドリューは僕らが行かなければあんなに爆発しないのだろうけど、今夜も相当破裂していた。

明日はリムリック。初めてトニー・オコンネルの家を訪ねる予定だ。

826日 (日)曇り。昨夜よく雨が降ったらしい。アイリッシュ・ブレックファストをいただいて1135分の電車でリムリックに向かい、そこでトニーと待ち合わせをすることになっている。

トニーは時間よりちょっと遅れて現れた、彼がここに来るまでにはAdeaという村を通り過ぎなくてはならないのだが、ここは以前ブレンダン・ベグリーと待ち合わせしたことがある。その時もとんでもないトラフィックだったことを記憶している。

トニーがピックアップしてくれてAdeaを通り過ぎた時の逆方向の混みようはただ事ではなかった。「さっき来た時もすごかったけど今は数倍ひどいな」と彼も驚いていたくらいだ。

途中でスーパーに寄って晩御飯のものを買って彼の家に着いた。

Brosnaというところはホーム・オブ・アイリッシュミュージックと言われるくらいにディープなところらしい。

彼の演奏を聴く限り、そういう力強さを感じる。

そして最も重要なことだが、彼は相手の音をかなり良く聴いている。確かに最も重要なことだが、結構そういう人は少ない。

僕がこのコードを使えば必ず2回目はそれに合わせて来る。逆に彼がこの和音を使えば僕が2回目はそれに合わせていく。

メロディーにおいても希花の動きを即座に捉えて素晴らしく合わせていく。これはなかなかできることではないが、ミュージシャンとしては最も大切な技術であり、感性だ。

そしてその上に独特な節回しと和音感覚を組み立てながらプレイしている。

このディープなBrosnaのパブで演奏できたことはとても灌漑深いものだ。しかも、わざわざ静かな、他のミュージシャンが来ないパブを選んでくれたことで、音もよく聞こえて素晴らしいセッションを展開することができた。

多くの人が参加して自分も知っている曲が出たら一緒に演奏して、というセッションを求める人は多いだろうが、彼のような人の演奏をじっくり聴くことの方が大切だ。

8月27日(月)曇り。ところで今日がトニーの誕生日らしい。本人も忘れていた、と言っていたが。もう少し早く知っていれば何か用意したのに。仕方がないので昨夜(と言っても今日)午前1時半ころ、戻ってきたキッチンでハッピーバースデーだけ言って寝た。

朝になって空を見てみると、雲の間に陽がさしていると思いきや、突然のシャワーの後また綺麗に晴れ渡る。

しばしBrid HarperCDなどを聴きながらお茶を飲む。トニーは明後日から彼女とのツアーに出かける。

やがてみんな起きて来てポリッジを食べた後、犬と一緒に散歩に出かける。大きなジャーマンシェパードが2匹。

ブラックベリーが生い茂る緑いっぱいの小径を登った先にはカウンティ・コークが見渡せる小高い丘がある。

広大な原っぱから見渡せる空と雲とカウンティ・コーク。犬も思い切り走っている。

やっぱりこういう景色に囲まれているからあんな音が出るんだろう。

僕らはトニーのところは1日だけで今日はリムリックに行く。

午後、トニーも用事でリムリックに出るのでちょうど良かったし、夕方一緒に食事をすることにして一旦別れた。

少しはバースデイをお祝いしてあげなくちゃ。

食事の前に買い物をして、ついでにレオニダスで誕生日プレゼントにチョコレートを買って、タイレストランで待ち合わせをしてしばらく過ごして彼は帰って行った。ノエルとはまた違った感性でコンサーティナを弾く男だ。

僕らが来る前の晩は興奮して眠れなかったよ、なんて言っていたが、山の中の一軒家、隣というところにたどり着くには一体どれくらい森の中を歩いたら良いんだろう。店というところにたどり着くにはどれくらいドライブしなくてはならないんだろう。

そんなところで犬とひっそり暮らす。たまには寂しく感じることもあるのかな。

僕は彼を日本に呼んであげたいミュージシャンの一人として考えている。

828日(火)曇り。1235分の電車でエニスに向かう。リムリック~エニスは近いしとても便利だ。今晩は先日会ったHughの家に宿泊させてもらうことになっているが、その前にジョセフィン(マーシュ)が食事を一緒にしよう、と言ってくれたので彼女の家に寄らせてもらうことにした。

待ち合わせのオールド・グラウンド・ホテルというところでしばらく時間を潰して、ジョセフィンの旦那さんのミックが来てくれたので、

いざ行かん、と庭に出たら、聞いたことがあるような音が聞こえて来た。

ふと見ると日本人ぽい顔をした女性がフィドルを弾いていて、アメリカ人ぽい男性が5弦バンジョーを弾いている。

しばらく見ていたら、女性の方が「日本人ですか?」と声をかけて来た。

「この国では珍しい5弦だったので。ブルーグラスですか?」などと声をかけて近寄るとどこかで見た顔。

BOMのニュースレターやYou Tubeなどでよく見ていたAnnie Staninecではないか。

男性の方はJohn Kaelだったかな。とにかくあまりの出来事にびっくり。

アイルランドのブルーグラス・フェスに出演するために来ているらしい。少し一緒にオールド・タイム・チューンやアイリッシュを弾いて時間が経ってしまった。

とても気さくな感じの良い子で、日本語も少したどたどしいかもしれないがちゃんと話すし、隣でジョンが目を白黒させていたのが面白かった。

想像もしていなかった良い出会いだったので、またどこかでの再会を約束して別れた。

ジョセフィンの家はエニスの市内から40分くらい。いつもは夜にしか来たことがないので、明るい景色を見るのは初めてと言っていいかもしれない。そんな道をひたすら走る。ジョセフィンは結構すっ飛ばす。

家について紅茶をいただいて、彼女が「チキンをオーブンに入れておくからその間に少し観光しましょう」と言って、霧のような雨が降る中、僕らはスパニッシュ・ポイントに出かけた。

何もないといえば何もないのだが、ここでも広大な大自然の息吹を限りなく感じることができる。

夕食後子供達も含めてのセッション。兄のジャックはパイプスを演奏するが、今日は弟のアンドリューがマンドリンとバンジョーを弾いた。12歳。まだこれからだが、いかにも、というリズムで弾く。少なくとも来年あったらとんでもなく上達しているだろう。

829日(水)曇りのち晴。朝早くHughがビシッと決めて出て行った。何の仕事をしている人なのか知らないが、見たところ銀行のお偉いさんとか学校の先生とか、そんな感じだ。

すごく急いでいたのでゆっくり話もできなかったが、めちゃくちゃ好青年という印象。こういう人があんなに強烈に滑らかな音を次々に紡ぎ出して普通にコンサーティナを弾くのだからたまったものではない。趣味で嗜んでいるなんていうレベルではないことに驚き。

今日は今までの疲れを取るためにエニスで1日ゆっくりして過ごそう。

夜、アンドリューと電話で話して、お互い今夜はゆっくりすることにした。ちなみにHughは教師らしい。