2019年 アイルランドの旅 12 カウンティ・ミースとウエストミース

8月30日    (金)曇り。

Co.Meath とCo.West Meathの境。 2014年に知り合ったリアムという人が彼の家にいく途中に色々連れて行ってくれる。Hill of TaraやLough Crewなど、今までに来たことがないところ。そこはアイルランドの歴史上で最も重要なところだと聞いた。360度見渡せる丘の上からほとんど全てのカウンティが見える、風が吹き荒れる絶景は確かに今まで行ったところのどことも違う感じがする。

5000年もの歴史にしばし感動して家に戻ってみんなで食事。

実は、ここに来ている理由だが、2014年の8月1日(金)にゴールウェイで出会ったバンジョー・ボーイ、彼のお父さんに毎年「チャンスがあったら来い」と言われていたからだ。

なので、夜には地元のパブでセッション。いつもやっているシンギングがメインのセッションだが、みんなそこそこの年で古いフォークソングなども飛び出す。

ダラウ(バンジョー・ボーイ)も18歳になり、バンジョーの腕前も冴え渡っていたが、こういう風に大人たちの歌を聴きながら、自身も歌うようになり、そしてバンジョーを弾く。そんな地元の人たちの愛情に包まれて成長していく姿を見るのはいいものだ。

余談だが、父親のリアムは、僕らが時々会っているカーロウで家具作りをしているダラウ(このコラムでも登場している)のいとこだ。

そんなことは全く知らずにコンタクトを取っていたがある日それが判明した時には驚いたものだ。世の中狭いもんだ。

8月31日   (土)快晴。

リアムと奥さんのアイリーンは朝早くからハーフ・マラソンに出かけた。ここの家族、とてもアウトドアー志向が強く、山登り、スポーツ、キャンプ、サーフィンなどしょっちゅう出かけるようだ。

2014年にアコーディオンを弾いていた妹も今ではハンマー投げの選手として高校で活躍しているらしい。あの時はまだ子供だったが、しっかりした筋肉質でいかにもスポーツ選手という感じだ。その下にもう一人妹がいるが、こちらもティンホイスルを吹く。ちなみにお母さんはコンサーティナを弾くが、走ることの方に今は重点を置いているのであまり弾いていないそうだ。

ちなみにリアムはバンジョーを弾く。こんな家族構成で家の中は賑やかだ。

一番おとなしいのは長男のダラウ。やっぱり女の子は社交的なのかもしれない。

午後からはKillua Castelというところに連れて行ってもらった。これまた素晴らしいところで、最初は突然の土砂降りで一時はどうなるかと思いきや、すぐにこの上ないくらいの天気に恵まれて、広い広いところを歩いた。羊も馬も気持ち良さそうに草を食べている。

途中、友人のところに寄る、と言ってある家の前に来た時「ここには、なんていうんだっけ。首の長い毛皮が取れるなんか南米によくいるらしい動物がいるんだ」とリアムが言ったが、それはなんとアルパカだった。

とんでもなく広い裏庭にアルパカが7~8頭いる。中には生まれたばかりのも居る。鶏も同じところを歩いている。猫もやってきた。

この家の持ち主である彼は、様々な楽器を作り、自分の家は自分で全て作り、スピーカーも作り、アンプも作り、アルパカの毛皮を売ったりしながら生活している。とても人のいい素晴らしい人だった。

夜、また地元の別のパブに行って演奏。そこはまるで船に乗っているような作りだったが、外から見るとただのバラック小屋みたいなところ。それでも10時過ぎたら人がいっぱい集まるから不思議だ。

結局2時半頃戻ってきて、満天の星をしばし眺め、紅茶を飲みながらお話しして、4時近くに寝床に入った。

9月1日   (日)晴れ。

今日は昼からBog(泥炭地)を歩きにいく。荒涼としたヘザーが生い茂る場所。アイルランドの人たちが冬を越すためになくてはならない

ターフ(turf)が作れるところだ。

アメリカや日本でturfというと、多くは芝やゴルフのグリーンを意味するらしいが、アイリッシュのターフというのは暖炉にくべるためのものを言う。ドライピートという言い方もできるらしい。

ダラウとその友人たちは朝早くからそれを掘り起こす仕事に出かけている。それはそれは大変な体力が要求される仕事だ。僕らは掘り起こされたターフが綺麗に並んで乾かされているのを見ながらひたすらヘザーの湿地帯を歩く。靴の底がクッションの上を歩いているみたいでなかなか気持ちがいい。

しかしそんなことを言っている場合ではない。ここで働いている彼らはアイルランドの歴史をそのまま受け継いで、そうして彼らの音楽も演奏している。

今回のミース滞在は少し今までとは違ったかもしれない。

今までは圧倒的にミュージシャンの家に泊まることが多く、本当にこの音楽のあるべき姿を彼らを通して見てきた。

しかし、今回は普通の家庭で子供達も一緒になってご飯を食べて、彼らがそれぞれ力仕事に出かけたり、女の子は家のことを手伝いながら、また夜な夜な音楽を楽しみに出かけていく。両親もそれをサポートして一緒になって出かけていく。

そんな姿を目の当たりにすると、この子たちはこうして育っていって、その中にはプロのミュージシャンになる子もいれば、そのまま地元で仕事をしながら音楽を楽しむ子もいる。そんな中に強烈にうまい子も沢山いる。

近所の子や親戚の子も沢山現れてどれが誰やらわからないけど、完全にごく普通の家庭の中に入って音楽を演奏したことは結構新鮮なできごとだったかもしれない。

しかし、どうしてどこのパブでも演奏する人に対して湯水のようにビールが出てきて、サンドウィッチまで出てきたりするんだろう。

晩御飯を食べた後の次から次へと運ばれてくるビールと、フライドチキン、ポテト、サンドウィッチ、サブマリンなどが山盛りのプレート。もう何が何だかわからなくなってしまう。

特に田舎ではこうして音楽を演奏する者に対するリスペクトが強いようだ。日本でいうアイリッシュパブとはかけ離れたものがある。

帰りは、リアムの両親がなんとカーロウから来ていたので彼らと一緒に帰ってきた。

そして、旅もそろそろ終わりに近づいている。