猫とネズミの攻防

近所の人気三毛猫でミーちゃんというありふれた名前の猫がいる。

焼肉屋さんの店先で、いつもいつも道行く人を眺めている。そのたたずまいの落ち着いた様子から親しみを覚える人が多いせいか、本人(本猫)もとても人懐っこくなっている。

どうやら飼い主はその焼肉屋のようだが、時々とんでもない光景を目にする。

開店前、まだドアーが閉まっている店先にミーちゃんが「どや顔」をして座っているが、ふとみるとその先に立派なネズミが横たわっている。

既に絶命しているそのネズミは勿論ミーちゃんが捕まえてきたものだと言うことは、そのどや顔をみれば一目瞭然。

これ、店の人困るだろうな。看板猫であることは間違いないのだが、この光景はよく見かけるのだ。

アイルランドで飼っているコムギと云うメスの白猫は、広い裏庭でモグラや燕を追いかけ、とうとう信じられないくらいに大きなウサギを銜えて戻ってきた。

もちろんネズミなんかもお手のものだ。

昔、アメリカのレストランで猫を飼っていた。それは隣にあったバーが店じまいをして少しの間空き家になっていた時の事。

夜な夜なネズミが出るので「そうだ。夜は猫をおいておこう」という話になったのだ。

ある朝、僕が誰よりも早く出勤した時の事。電話が鳴った。

まさかこんな早くにテイクアウトの予約?と思いキッチンから出て電話を取った。

女の人が「猫、猫」と言っている。あ、コリャやばい!レストランの中に猫が居るなんてあんまり知られたくない。

僕はとっさに「え、何のこと?猫なんていないよ」と云ったらその人が「ダイニングを見て

ちょうだい」と云うので、ふと、まだセットしていない客席を見ると…。

ここで飼っている猫がじーっと天井を見つめている。

ちょうど窓際に2メートル弱のスタンドがあって、よく見るとその上に小さなネズミがいるではないか。

いったい、いつからそのままの態勢でにらめっこしていたんだろう。入った時にはいなかったと思うが。

僕はすぐに電話に戻って彼女に「知らせてくれてありがとう」と言ってスタンドを揺らしてネズミを落とすとネズミは走り出し、その後を一目散に猫が追いかけてキッチンに消えていった。

聞いた話によると、猫は特にネズミ、と言うことではなく、動く小さなものには敏感に反応するらしいが、トムとジェリーに代表されるように猫とネズミの攻防はごく自然なことなんだろうなぁ。それともやっぱり昔ばなしから?

またすぐにミーちゃんが「どや顔」で座っている姿が見られるだろう。