2011年 アイルランドの旅~カウンティ ケリー その2~

今日は特にやることはないが、夜にはまたケイリ・ダンスで演奏があるから一緒に行こうと言われている。

そして、そこには兄のシェーマスと、それからギタリストのドナウ・ヘネシーが来ると言う。

彼は、超売れっこバンド“ルナサ”の元のギタリスト。随分前からの知り合いなので再会できるのがとても楽しみだ。

しばらくこの辺りを散歩しよう。以前、ブレンダンが連れて行ってくれたところ。そう、音楽とはこの波の音であり、この風の音なんだ、という話をしてくれたあの場所へ若きフィドラーを連れていってやろう。

本物のアイリッシュ・ミュージックはこういうところから生まれてきたんだ、ということを身体で感じ、魂の奥深くまで、自然と人間と音楽とが絡み合う感覚に浸れる至高のひと時を過ごさせてやろう。

夕刻、車で1時間半ほど。どこをどう走ったのかよく分からないが、とにかくそれくらいの時間でどこかの小さな町らしきところに着いた。人が沢山集まっていて、どうやら野外でケイリ・ダンスをやるらしい。と、そこへシェーマスとドナウが現れた。

ドナウとはもう何年ぶりになるだろうか。ルナサとも随分共演したのでとてもよく知っている仲だ。

彼も僕を見て驚いた様子だったが、ゆっくり話をする間もなくダンスのスタートだ。

小さな町の小さなお祭り。さしずめ日本でいうところの盆おどりだ。子供からおじいちゃん、おばあちゃんまで。みんな楽しそうだ。

パブでの演奏と違い、 比較的早く終わった。ブレンダンは、この町に泊まるけど一緒にどうだ、と言ったが、ドナウがディングルまで帰るから、もしよかったら送ってあげる、と言ってくれたので帰ることにした。

そうすれば道中、彼とゆっくり話すこともできるだろう。それに、彼の作った名曲“スカンランの娘”をレコーディングしたかった僕らにとっても、直接許可を得るのに願ったり叶ったりの大チャンスだ。

真っ暗な道をすっ飛ばすドナウ。もう通い慣れた道なんだろう。それでもこちらは足が突っ張っている。

ドナウに尋ねた。「君の作ったスカンランの娘はとても美しい曲だな。僕らのフェィバリッツのひとつで、今度レコーディングしたいと思ってるんだ。いいかな?」

彼は嬉しそうに「有難う。是非やってくれ。結局フィアンセに贈った曲だったんだけどあの娘とは結婚しなかったんだよ」と、申し訳なさそうに言った。

ディングルで、今つき合っている彼女を仕事終わりでピックアップすると、車のなかは一段とにぎやかに。

ディングルの町の明かりが遠ざかり、また真っ暗の中をブレンダンの家めがけてすっ飛ばすドナウ。

再会を約束してその晩は別れた。時刻は午前12時をまわった