2022年 アイルランドの旅 40

朝7時半。今頃はアパートの下を流れる川も水嵩がだいぶあるので、いつもサギが止まっている石も水の中。

それでも一応どんな様子か見てみようとベランダに出てみて驚いた!

初めてここでみる白鳥。それも子供連れ。優雅に2羽の大人と3羽の子供が佇んでいる、というよりも流されている。

結構水も多く、流れがあるのでスイスイと流れていった。

この街にいたら白鳥は決して珍しくないが、こんなに身近にいると、やっぱり「でかいな」と感心してしまう。

以前、北海道でお世話になった国柄さんという人が白鳥に追いかけられて必死に逃げていたけど、あれ、よく分かる。

さて、昨夜はちょっとした変化があった。

希花さんの勤め先、以前自宅にお邪魔させていただいた医学博士が取り仕切る、循環器系のカンファレンスで演奏する、という話。

世界中からその権威が集まり、中にはノーベル賞受賞者も数人。正に頭脳集団と言えるだろう。

会場はお城のようなホテル。

ちょっと嫌だなぁ、と思ったが希花さんが日頃お世話になっている人からの要望なので、僕も少しだけマシな格好をして出かけた。

午前9時頃から会議が始まったらしいが、僕らが演奏するのは、予定では7時半頃だったのが10時を回ってからになってしまった。

それだけ会議にみんな集中して止まるところを知らないくらいの意見交換がなされたんだろうな。

なのに、みんな元気に飲んでいる。

流石にパブの酔っ払いとは違う。

いろいろ予定が変わって僕らはディナーの後20分ほどの演奏を頼まれた。

希花さんは知っている人がたくさんいるけど、僕はまるで借りてきた猫だ。

昔は猫の貸し借りなんてあったんだろうか?ネズミ退治のためだったのかな。

いやいや、まぁそんな感じだったが幸運にも仕切り役の医学博士が気を使ってくれて、僕らはみんなを見渡せる少し余裕のあるテーブルにつかせてくれた。

これは非常に助かった。

みんなの様子を見ながら、彼らがいくら酔っていても、もしここで誰かが倒れたら絶対に助かるな、と思っていた。

60~70人ほど、いやそれ以上いたかな。それだけの専門医に囲まれることはあまりない。

美味しいディナーをいただいて、さて、僕が知っている医学博士ともう1人、世界のトップに君臨する75歳のプロフェッサーが希花さんを紹介し、やんやの拍手の中、

借りてきた猫も準備して演奏を始めた。

当初もうちょっと早い時間から、それもディナーの前、という予定で、僕らも「ガヤガヤしていてどうせみんな聴いていないよ」なんて思っていた。

ところがどっこい。みんな嬉しそうに足踏みし、手拍子もあって、それでも真剣に聴いている。

これってやっぱり学のある人たちだからかなぁ。

ワルツやジグ、リールなどを演奏してアンコールまでいただいて「じゃぁ希花さんが生まれる前にヒットした名曲から」と僕が、少しだけ頂いた極上のワインの勢いでアナウンスをして、エルビスのCan’t Help Falling in Love With Youから入るジグ/リールセット。

思った通りCan’t Help~ではみんなの大合唱。そして大喝采。

終わってからもいろんな人が挨拶に来てくれて、それはそれで希花さんの存在を彼らに知っていただくいい機会になっただろう。

ひとり、アメリカ生まれの女性がカーター・ファミリーやジョニー・キャッシュを知っていて、僕がカーター達と住んでいたことがあったと話したらとても喜んで、その女性とはいっぱいカントリーやブルーグラスの話をして盛り上がった。

その後、いかにも権威のありそうな博士が「これからバーで飲むぞ。行くか?」なんていってくれたけど、借りて来た猫としては早く帰りたい気持ちもあったので丁重に断った。

しかしこの人たち、朝9時から会議して、今はもう11時にもなろうとしている。それに明日だって会議があるみたいだけど。

いったいいつ寝るんだろう。貸し出された猫は早々と寝かせていただいた。