2023年アイルランドの旅 10

ギターのブリッジが少し浮きかけているようだ。

これはやばい。このまま放っておいたら飛ぶなぁ、と思い、応急処置で仕方ないから誰かいないかな。これはいくら何でも自分では無理だし。

そんなことを思いながらいろいろ検索してみると、工具もいるし、やっぱり楽器店か、と考え、あ、そうか近くに2軒あるな、ということを想い出した。

ひとつはキーラン・モロニーズ。

フルート奏者のパディ・モロニーの息子の店だ。

パディ・モロニーズ・フェイバリットといういい曲を僕らもレパートリーに取り入れている。

すぐ近くだが、それよりももっと近くに一軒あったのを想い出した。

ポール・ドイルだ。通りに出たらほとんど見えるようなところ。

こりゃ幸い、と持って行った。

使う予定があったので一応状態だけ見せに行って、次は明々後日だけど、という相談を持ちかけるつもりだった。

対応してくれたのが若いフィドラーの女の子。

見るなり「あーこれだったらまだそう悪くないし、1時間くらいでできる」と言っていた。

ほんまかいな?と思いつつ「明日居る?」と訊くと「うん、1時には来ているからあたしがやるし大丈夫」と太鼓判。

「じゃぁ明日の1時に持ってくる」と言って店を出た。

そして1日経ち、1時に店に行ってみた。

アイルランドあるある。ピタっとドアに鍵がかかっていてなんやら張り紙がしてある。

HPには10時オープンと書いてある。

それでも一応その張り紙には「そんなに遠くへは行っていないからここに電話してくれ」と書いてあるので、早速電話した。

するとポールが出た。事情を話してここで待っているから、という事になり、しばらく…そうだなぁ、20分程だったかな。

以前にも会ったポールとはちょっと違う感じのポールが「俺を待っているのは君か?」と言って歩いてきた。

どうやら病気を患ったようだ。

とりあえず昨日のことを話して「彼女来ている?」と訊くと、アイルランドあるあるだ。

多分もうすぐ来る、という返事。

そりゃそうだな。中にいるのにきっちり鍵がかかっているわけがない。

そして待つこと10分。普通の顔をして現れた彼女の最初の一言「あら、あんた早いわね」アイルランドあるある。

ま、それでもすぐに取り掛かるから1時間して戻ってきて、と言われた。

果たして1時間というのは本当だったが、そんなんで大丈夫なんだろうか。

ポールは身体の具合がかなり悪そうだし、女の子はどうみてもリペアーマンには見えないし。でもノーチョイスだ。

恐らくキーランの所に持っていったら何日か預けてくれ、と言われていつ仕事を始めるか分からない。その危険は十分にある。

そのうえチャージもそれなりにされそうだし。

そんなわけでとりあえず、応急処置で良いので彼女にまかせることにしたのだ。

そして1時間経って行ってみたら今度は「あら、あんた早いわね」とは言われなかった。

「弦、もう張ってもだいじょうぶかな?」と訊くと「多分大丈夫」という返事。

その「多分」は90パーセントくらいの自信のようだ。

ご飯粒で貼り付けたわけではなさそうだ。アイルランドだし、イモか。

とりあえず今日1日くらいは休ませておこうかな。

因みに25ユーロの出費だった。

なんとなく彼女の小遣い稼ぎに一役買ってあげた気持ち。