ギターのブリッジが少し浮きかけているようだ。
これはやばい。このまま放っておいたら飛ぶなぁ、と思い、応急処置で仕方ないから誰かいないかな。これはいくら何でも自分では無理だし。
そんなことを思いながらいろいろ検索してみると、工具もいるし、やっぱり楽器店か、と考え、あ、そうか近くに2軒あるな、ということを想い出した。
ひとつはキーラン・モロニーズ。
フルート奏者のパディ・モロニーの息子の店だ。
パディ・モロニーズ・フェイバリットといういい曲を僕らもレパートリーに取り入れている。
すぐ近くだが、それよりももっと近くに一軒あったのを想い出した。
ポール・ドイルだ。通りに出たらほとんど見えるようなところ。
こりゃ幸い、と持って行った。
使う予定があったので一応状態だけ見せに行って、次は明々後日だけど、という相談を持ちかけるつもりだった。
対応してくれたのが若いフィドラーの女の子。
見るなり「あーこれだったらまだそう悪くないし、1時間くらいでできる」と言っていた。
ほんまかいな?と思いつつ「明日居る?」と訊くと「うん、1時には来ているからあたしがやるし大丈夫」と太鼓判。
「じゃぁ明日の1時に持ってくる」と言って店を出た。
そして1日経ち、1時に店に行ってみた。
アイルランドあるある。ピタっとドアに鍵がかかっていてなんやら張り紙がしてある。
HPには10時オープンと書いてある。
それでも一応その張り紙には「そんなに遠くへは行っていないからここに電話してくれ」と書いてあるので、早速電話した。
するとポールが出た。事情を話してここで待っているから、という事になり、しばらく…そうだなぁ、20分程だったかな。
以前にも会ったポールとはちょっと違う感じのポールが「俺を待っているのは君か?」と言って歩いてきた。
どうやら病気を患ったようだ。
とりあえず昨日のことを話して「彼女来ている?」と訊くと、アイルランドあるあるだ。
多分もうすぐ来る、という返事。
そりゃそうだな。中にいるのにきっちり鍵がかかっているわけがない。
そして待つこと10分。普通の顔をして現れた彼女の最初の一言「あら、あんた早いわね」アイルランドあるある。
ま、それでもすぐに取り掛かるから1時間して戻ってきて、と言われた。
果たして1時間というのは本当だったが、そんなんで大丈夫なんだろうか。
ポールは身体の具合がかなり悪そうだし、女の子はどうみてもリペアーマンには見えないし。でもノーチョイスだ。
恐らくキーランの所に持っていったら何日か預けてくれ、と言われていつ仕事を始めるか分からない。その危険は十分にある。
そのうえチャージもそれなりにされそうだし。
そんなわけでとりあえず、応急処置で良いので彼女にまかせることにしたのだ。
そして1時間経って行ってみたら今度は「あら、あんた早いわね」とは言われなかった。
「弦、もう張ってもだいじょうぶかな?」と訊くと「多分大丈夫」という返事。
その「多分」は90パーセントくらいの自信のようだ。
ご飯粒で貼り付けたわけではなさそうだ。アイルランドだし、イモか。
とりあえず今日1日くらいは休ませておこうかな。
因みに25ユーロの出費だった。
なんとなく彼女の小遣い稼ぎに一役買ってあげた気持ち。