アイリッシュブレックファーストを食べながら、昨日のフランキー・ギャヴィンは凄かった、という話で充分盛り上がることができた。
今日はバスキングに精を出してみよう。この町ならやりがいがあるかもしれない。だがバスキングの場所を探すのもなかなかに難しい。
これだけミュージシャンが路上でしのぎを削っていると、たぶん縄張りもあるかもしれないし、などと考えながら歩いていると小学校低学年くらいの男の子3人がアコーディオン二つとフィドルで演奏している。なかなかに上手い。これだからこの国はたまらん。 こいつらのほうが絶対金を稼げる。
こっちもまれかを小学生に見立てるか、などと考えながら歩いていると、とてつもなく下手なフィドルを弾いている人もいる。初心者路上練習中。
それでもお金を入れて行く人がいる、ということは、例えどんなかたちにせよ音楽家を育てていく気持ちを持っている人が多いということだろう。
いい場所が見つかったので僕らも始めた。やっぱり人は集まって来る。そして次から次へとコインが投げ込まれる。充分晩ごはん代にはなりそうだ。
久々にメキシカンを食べた。
腹ごしらえを済ませて、クレインズという有名なパブがあるので、今日はそこへ行ってみよう、という話に落ち着いた。
たしかあっちのほうだったよ、というまれかだが、それでえらい目にあったことは今までに何度あっただろうか。何人の人が大変な目にあっただろうか。
とにかく自分を信じて歩き出した。
歩いていると、道の反対側をバンジョーらしきものを持った人がやってきた。おっ、あの人に訊いてみよう、と道を渡った。
近づいてみると、バンジョーではなくマンドリンだ。「すみません」と声をかけたとたん
驚いた。むかしからよく知っていたデクラン・コリーだ。
もう10年も会っていなかったが、何度も何度も一緒に演奏したことがある。テクニックもさることながら、あまりに美しい顔だちで正視できないくらいの、今でいうイケメンに超が100くらいつくような男だ。
多少歳はいったが、その片鱗は充分にある。
「デクラン?デクラン・コリーじゃないか。僕だよ。じゅんじだよ」しばらく状況が読めなくてキョトンとしていたが、すぐに「あっ!じゅんじ」
彼のことを知る人は日本ではあまりいないが、リア・ルクラというバンドのメンバーとして、若い人は知っているかもしれない。
もう解散してしまったバンドだが、ギタリストのジョン・ヒックスも20年も前からの仲好だった。デクランはリア・ルクラを始める少し前からの友達だったが、バンドを始めてからは忙しかったのだろう。あまり会う機会がなかったのだ。
なのに、こんなところで偶然にも会おうとは。
今日はギグだけど、明日“チコリ”でセッションをやるから来ないか?と言ってくれた。
おっと。クレインズの場所を訊き忘れるところだった。明日の約束をして、フィドラーを連れて行くからとまれかを紹介して一路クレインズへ。
「ね、あってたでしょ」と自慢げに言うまれか。「偶然だよ」という僕。
どちらにせよ、デクランと逢えたことはとても嬉しかったことだ。
クレインズでのセッションはごく普通だったが、ここにもかなり上手いコンサルティーナのねえちゃんがいた。
どこにでもいる。こういう人。
また一晩、アイルランドの夜が更けて行く。