1999年、アンドリュー・マクナマラと共にカリフォルニアを訪れた彼。大の飛行機嫌いの彼にとっては長過ぎたフライトだったらしい。
這這の体とはああいうことを言うんだろう。まだ身体が震えている、と言ったが、一時間ほどでステージに上がらなくてはいけない。
とりあえずギネスさえ飲めば何事もなかったように回復することだろう。
持ってきたのは、子供用のような小さなコンサルティーナだが、驚くほどクリアーで大きな音がする。
ヘトヘトのはずなのに、まるで食事をするかのように普通に弾き始めた。やっぱり恐るべし、ギネスの威力。
少し太り気味のシルベスタ・スタローンのような顔をしているが、悲しいくらい美しいメロディラインを淡々と奏でる。
その音色には、まるで心を洗われるような、今まで生きてきた人生のシーンを想い出させるような力がある。
テリーこそコンサルティーナの神様だ、と称賛する人が数多くいるということも納得だ。
彼とは以後、彼の本拠地、ドゥーランで何度も演奏することになるが、彼の生きざまそのものが音になって表れているような気がしてならない。
小さな家に一人で住み、音楽を生活の糧に、とてもシンプルな暮らしを送っている。その彼が紡ぎだす音には、誰もが“あー、これがアイルランドの音楽なんだ。これがここの人達の暮らしなんだ”と思わされてしまうだろう。
とても話好きだが、かなりきついアイリッシュ・アクセントの上、早口ときている。もしかしたらアンドリューとテリーというのは分かりにくい両巨頭かもしれないが、彼らとの演奏はとことん楽しい。
アンドリューが悪戯っ子のようにふざけてとんでもないコードをロング・ノートで弾くと、テリーはその横で肩をすぼめてにやにやしながら僕の方を見る。
アンドリューは偏屈だけど、テリーもマイ・ペースで気にしていないようだ。
きっとアンドリューもテリーを信頼しているし、テリーもアンドリューの子供っぽいところが好きなんだろう。
僕らはけっこういいトリオだったように思う。
2011年、ところはアイルランド、カウンティ・クレア。フィークルという村にあるペパーズというパブで久しぶりに3人が揃った。
アンドリューは大爆発した。
テリーも相変わらず、肩をすぼめてにやにやして僕の顔を見る。
音のクリアーさも、センスのよい音運びも全く変わっていない。
演奏が終わるとアンドリューが上機嫌で言った。
「面白かった。楽しかった。またやろう」
あの頑固でわが道をいくアンドリューをそう言わしめるのも、テリーの人間味溢れるプレイがあってこそ、だろう。