2012年アイルランドの旅 ~7月14日 ミルタウンマルベイ~

曇っているが時々太陽が顔をのぞかせる。

前の晩からの大騒ぎで少々寝不足気味。ここでケリーの人たちと過ごすのだったら覚悟が必要だ。

今日は前日に会ったウノさんと、大阪の上沼君とでセッションに出かけてみよう、と相談がまとまっていた。

そして、どこに行こうかと話をしているところにジョセフィンから電話が入った。もし暇だったらヒラリーズというパブに行くから是非来てほしい、という。

ジョセフィン・マーシュは以前コラムでも書いたが、実にセンスのいい滑らかな音と抜群のリズム感覚と鋭いコード感覚を持ち合わせたプレイヤーだ。そして小柄でかわいくて、とてもいい人だ。みんなから好かれている。

そんなジョセフィンから再三誘われるということはとても光栄だ。ぼくはみんなを引き連れて一目散にヒラリーズに向かった。

ウノさん、上沼君、そして希花と僕がジョセフィンを囲んで後から数人の人たちが集まってセッションをしていると、またしても見た顔が驚いている。僕も非常に驚いた。その昔、サンフランシスコのプラウ・アンド・スターズのセッションによく来ていた牧師さんであり、フルート吹きのジョン・グリフィンだ。

ミュージシャンとしての付き合いではなく、それでもセッションではよくお話したものだが、そういえば97~8年ころからあまり見かけなくなり、誰かが彼はアイルランドに戻ったよ、と言っていた。

じつに彼ともそれ以来だが、全然変わっていないのには驚いた。めちゃくちゃにいい人だ。沢山のひとが見ている中、日本人4人がジョセフィンを囲んでいる様は他のパブとは異質に見えたのかもしれない。ジョンもそんな光景にふと、足を止めてみたら僕が居た、というところだろう。

嬉しい再会が沢山あったミルタウン・マルベイとも今日一日でお別れ。明日はエニスに向かうのだが、また帰ったらケリーの人たちが大騒ぎすることだろう。

だがそれは、予想をはるかに超える凄まじいものだった。

2時ころからポルカが始まり、数人が雑魚寝していたちょうど僕の枕元で、あれは4時ころだと記憶しているが、激しいステップを踏んでしばらくして出て行った奴がいた。あとで、あれはブレンダンの息子で、コンサルティーナの名手、コーマックだ、と言った人がいたが、彼のキャラではない。絶対にシェーマス・ベグリーの息子の、これまたコンサルティーナの名手、オーインにまちがいない。彼だったらやりかねない。

なにはともあれ、音楽はいくら酔っ払っていても大したものなのだ。ひとりの若者が僕の足元で携帯を握り締めて、そんな大騒ぎの中でいびきをかいている。それをみてもやっぱり白人はタフだな、と思ってしまう。

踊るアホウに寝るアホウだ。

朝方、ほとんど寝ていないはずのコーマックがコンサルティーナを練習していた。何度も何度も同じフレーズを続けていた。その真剣な姿はさすがに27歳という若さでありながら、この楽器のマイスターの一人として名を連ねているだけはあるな、と思わざるを得ない。同時に悪乗りして枕元でダンスをするようなキャラにもみえない。

ミルタウン・マルベイで最後に見た素晴らしい光景はコーマック・ベグリーの真剣な眼差しだった。