2012年アイルランドの旅  ~7月23日 ドゥーラン~

7月23日 朝から雨。

その雨の中、ボー(タイ人の名前)は朝早くからモハーの断崖を見るために出かけて行った。

僕らも同じ方向であるドゥーランに向かう予定であったが、僕らは昼過ぎに着けばいいので、ゆっくり食事をしてから出ることにした。

またコンサルティーナのテリー・ビンガムが待ってくれている。今日はオコーナーズというパブでクリスティー・バリーとのセッションだ。

エニスを昼前に出るバスに乗ると、途中、モハーの断崖を通る。雨と霧と風で一寸先も見えないくらいだ。ふと見ると、ボーが乗ってきた。

どうだった?と訊くと、やはり何も見えなかったので入場料も取られなかったそうだ。僕が初めてここに来たのは、‘99年頃。アンドリューが連れてきてくれた。その時は勝手に空いているところに車を止めて、柵も無い断崖絶壁に恐怖を覚えたものだ。そんな風に普通に立ち止まれる観光スポットであった。

しばらくして、ユーロ圏に変わると入場料(たしか突然4ユーロだったと思う)を払うようになった。御土産屋もできた。柵もできた。そして今は6ユーロらしい。

お金をはらって怖い思いもしたくはないが、天気さえよければたしかに一見の価値は十分過ぎるくらいにある。

ボーは少しドゥーランを歩いてエニスに戻る、と言っていた。僕らはテリーと待ち合わせしてエニスタイモンという近くの町へ買い物に出かけた。

この辺では少し大きめの町なのでなかなかに大きなマーケットがあった。出入りする人がそれぞれに「やー、テリー」と声をかけていく。

いろいろ物色をしていると、とても美味しそうなアップルパイを発見。20cm以上の大きさもあろうパイがわずか2ユーロだ。まよわずそれをカゴの中に入れて他のものを見てまわっていると、希花が「あっ、こっちのほうが美味しそう」と別のアップルパイを見つけて叫んだ。

たしかに形は綺麗で上品だ。少し小さめではあるが同じ2ユーロ。テリーがジッと見つめてひとこと。「いや、こっちは形はいいけどリンゴの量が少ない」かくして最初のほうに決めたのだが、これが大正解だった。

味もよく、あふれんばかりのリンゴが入っていたのだ。アップルパイのちがいが分かる男、テリー・ビンガムだ。

夜、オコーナーズに向かうと、フィドラーのジェリー・ハリントンも来ていた。アメリカであって以来15年ぶりくらいだ。「やぁジュンジ」と独特なかん高い声が響いた。

ジェリーはかなり高名なフィドラーで、そのむかし僕が初めて会ったころには元ディ・ダナンのチャーリー・ピゴットと一緒にまわっていたはずだ。

ケタケタとよく笑う人だが、さすがに一人で弾いたエアーは胸に響いた。本当の本物だった。