今回は“アリちゃん”をゲストに迎えてのコンサート。初めて公共の場で合わせる緊張感というものは、聴く方にとってみてもドキドキものかもしれないが、演奏する側にとってはそれ以上のものがあるかもしれない。
よく省悟が言っていた。「初めて、というものには計り知れない価値がある。2回目からはその価値は半分以下だ」
もちろん、気持ちの上ではまだまだこれからなのだが、ある意味それも正論かもしれない。
正論、と打ったら、かたかなで“セイロン”と出てきたので紅茶が飲みたくなった。
一部はまず僕らだけで演奏することにして、この日、久しぶりにFar Away Waltzのセットから始めてみた。いい感じにスタートできたような気がする。
そして、ジグから川のほとり、そしてSimple pleasureの久々のハープソロ、そのあと、Jim DonoghueのセットにNeck berryを加えて演奏した。
そして、僕は久々にVincentを弾いた。サウンド・オペレーターの片桐さんが素晴らしい音を作ってくれていたので、ここは一発入魂。二度とできないだろう、くらいの演奏が、といいながら、二度と出来なくてどうする、という声が聴こえてきそう。
ここも気持ち的には、ということで解釈してもらいたい。
そして、アイルランドの種違い、腹違いの弟、アンドリュー・マクナマラから習ったワルツFlowers of ForestからMaster Crowley / Roscommonのセットへ。
そして一部を終わり、いよいよ世紀のファースト・タイム、“アリちゃん”とのコラボが始まった。
“アリちゃん”はもともと大阪の人で、どこかすっとぼけた面白さがある。谷村しんじがやっていたロック・キャンディーズというグループでベースを弾いていた彼に出会ったのが初めての時だったから、もう40年以上前のことだ。
それからあまりご一緒させていただく機会がなかったが、いつだったか大阪で共に演奏する仕事があって、その時に会場への道すがら、阪神デパートで“イカ焼き”を食べたことが妙に印象に残っている。
これこそ大阪を代表する食べもののひとつだ、と僕にいいながら「おばちゃん、イカ焼きふたつ。ソース多いめにしてや」と嬉しそうに注文。
そして階段のところに座って「ここに座って食べるンが通なんや」と教えてくれた。なんか嬉しそうにしている姿が今も心に残っている。
さてさて、音楽は希花と3人で“初La Partida”から。緊張がはしる。日本の夏だ。
そして、希花さんのコンサルティーナと一緒に“Tour de Tille”これはケビン・バークのバンド「オープン・ハウス」のレパートリーで“アリちゃん”が持ってきてくれたものだが、最初フィドルで練習していた希花が「あ、コンサルティーナで出来そう」と言って、あっと言う間にやっていた。
が、しかしここでも“初もの”としての日本の夏が走る。そして、“アリちゃん”の歌で「星めぐりの歌」いい声だ。なんか人の良さがにじみでている。そのままアイリッシュ・チューンのMorning Starへ。
希花のフィドルがハーモニカに絶妙に絡む。こういうものこそ、全く初めて、という時に“えも言われん何か”が生じるのだろう。
そして、3人の最後にOrange Blossom Special、僕のバンジョー、希花のフィドルに“アリちゃん”の超絶ハーモニカが突っ走る。
ここでも初めてならではの緊張感。
“アリちゃん”にはここで一休みして頂き、また二人になった時、ライブならではのハプニング。コンサルティーナとハーモニカのチューニングが結構違うのだ。
前出のインストではなんとか“アリちゃん”が調整しながら吹いてくれたが、今度はギターと二人だけ。コンサルティーナはご存知の通り、微調整できるものではない。
従って、微妙にハーモニカに近付けてチューニングしたギターとちょうど気持ちの悪い“ずれ”が生じている。
「野ばらと鳩」を唄おうと思ったが、その微妙とも、かなり、とも言えるチューニングの狂いで歌詞が出てこない。
どこの弦がどれくらい狂っているか、全体的にどれくらいの違いがあるのか、等考えだしたらもう駄目。
やっぱり、そろそろ二つ以上のことを考えながら行動を起こすのは難しくなっているのかもしれない。
チューニングおかまいなしに唄える人がうらやましい。
結局、「ハード・タイムス」にしてもらった。フィドルとはバッチリだったので、一件落着。もうこの歳になるとこれくらいのことではびくともしないが、聴いている方はどうなるんだろう、と思ったかも。ご迷惑をおかけして、すみません。
そして、またまた久しぶりのSwan LK 243 やっぱり美しい曲だ。これほどに美しい曲もなかなかない。
最後は希花さんのフィドルをフィーチャーしてReel Beatrice / Abby Reel / Eileen Curran / P Joe’s Pachelbel Special大さく裂だ。
アンコールで再び“アリちゃん”と。Si Bheag Si Mhorでフィドルとハーモニカが絶妙に絡む。その合間をぬって、二人の掛け合いを聴きながら最良の音をギターでうめていく時、本当に気持ちが高揚してくる。
最後は“アリちゃん”にボーランを叩いてもらって、Yellow Tinker / Drunken Tinkerのセット。
僕ら三人はこの後、少しだけツアーに出ます。そのツアーが済んでも、いつでもまたどこかで一緒に出来そう。
“アリちゃん”はそういう人だ。
しかし、さすがに初めての組み合わせの初めのコンサート。もう二度とやってこない初めて、というコンサートに遠いところからもかけつけていただいた皆さんに感謝します。
サムズ・アップのスタッフの方々、サウンドの片桐さん、どうも有難うございました。