朝3時半、僕ら3人の珍道中が始まった。
羽田空港から仁川(インチョン)まで。2人は初めて。僕は1970年代に省ちゃんと行ったことがある。
当時、ひょんなことから知りあいになった、キム君(沢山いるんだろうが)キム・ホン・チュル君という人がいた。
彼は韓国の国民的ヨーデル歌手だったが何故日本に来ていたのか、そして京都に来て何故僕らと出会ったのかよく分からない。
でもなんか一緒に中津川に行ったかもしれない。
そして、彼はブルーグラス・スタイルの演奏に心を奪われて、国へ帰ってからブルーグラスを始めたのだ。
なので、人々は彼のことを「ファーザー オブ コリアンヨーデル」と呼ぶらしいが僕はもうひとつ「ファーザー オブ コリアン ブルーグラス」と呼ぶことにしている。
そのキム君、今はカナダに住んでいるらしいが今回、この韓国ツアーを企画してくれた女性が彼のメールアドレスを見つけてくれたので、なんと連絡が取れたのだ。
今回は会えないが、いつかどこかで会えるだろう。
さて、企画してくれた女性は去年、ノエル・ヒル京都公演をわざわざ韓国から聴きに来てくれた3人のうちのひとり。僕らはスーミーと呼んだがもっとちゃんとした発音があるのだろう。
とに角ぼくらも鬼が出るか蛇が出るかくらいの感じで右も左も分からない。
キアラン君、早速、仁川空港の旅行案内所で「僕は仁川に行くんだけどどういったらいい?」
と訊いていた。
希花さんが素早く「キアラン、ここがインチョン」と突っ込んでいた。
確かに地名が難しい。書いてある文字はさっぱりわからないし、もしかしたら中国の方が僕らにとっては分かり易いかも…。でもキアラン君にとってはどちらもさっぱりだ。
僕らはなんとかそう大した問題もなくバスでソウルに到着。
あまりに朝はやかったので少し休んで昼御飯を3人で食べに行くことにした。
この際だから、旅行者のあまり行かないようなところに行ってみようという話になり、それでもホテルの割と近く、入り乱れた細い路地の向うになんだか地元民でやけに盛り上がっている店がある。
何だかよくわからないけど入ってみよう。キアラン君を盾にすれば大丈夫だろうし、またなんか面白いことやらかしてくれるだろう。
と思っていたが、なんか意気消沈してやけに大人しかった。向うもここは同じアジア人の僕らに全てを委ねるしかない、と思っているのだろうか。
なんとか注文もできた。「魚はこいつがダメ」なんて言いながら豚肉のキムチチゲをオーダーした。
今思えば、38度線の近くでキム君と食べたのはナマズのチゲだった。
はさみが上手いこと使えなくて店のおばちゃんが助けてくれた。
周りは地元の爺さん、ばあさんばかり。いや、僕とあまり変わらないのかな。
それからまた少し休んで今度は明洞(ミョンドン)に行ってみることにした。そこは観光地だ。
原宿をごちゃごちゃにしたようなところ。韓流スターお目当ての日本人も沢山いるようだ。一際大きく聞こえてくる関西弁。
晩御飯は案内所で手に入れた情報を頼りに明洞ギョーザという所で麺類と美味しい餃子を食べた。今日は疲れたのでそんなもんにして、早く眠ることにした。
それにしても、とんでもなくインパクトのある第一日目だった。
22日。今日は夜、ギターのワークショップがある。だが、まず昼飯だ。ここはアイルランドと違ってほとんどのものは美味しい…と思われる。
僕と希花さんは2人で参鶏湯(サムゲタン)を食べに行くことにした。キアラン君、疲れてもう少し休むらしい。
やっぱり東洋人の僕らよりも神経を使っているのかな。
参鶏湯と共になんだか高麗ニンジンの入ったお酒がサービスでついてきた。そのことを後でキアラン君に言ったら「酒!酒」と地団駄踏んでいたが、けっこう変わった味だったので飲めたかどうか分からない。
それから少し休んでワークショップのある場所まで地下鉄で向かう。こんな時には希花さんのスマホと研究熱心なところが役に立つ。
僕とキアラン君とはほとんど希花さんの後をひっついて、という状態。
ワークショップはキアラン君がフルートとホイッスル、僕がギターで希花さんにメロディーを弾いてもらってのバックアップのやり方をメインに、キアラン君の所とは場所が少し離れているところで行われた。そういえば始まる前にトンカツにカレーがかかった…カツカレーか…でもトンカツがメインのそれはそれは美味しい晩御飯をご馳走になった。なんだか食べてばっかりいるみたい。
ギターの方では4人の生徒さんに囲まれて1時間ほど。コードワークの説明やクロスピッキングの練習などをした。みんな興味津々の様子で、お話に、演奏に聴き入ってくれて、いくつか一緒にバックアップの練習をして短かったが楽しい時間を過ごすことが出来た。
終了後もビールと様々な料理で話が弾んだ。
23日。 今日はコンサートがある。
その前にまた腹ごしらえとショッピング。
さて、韓国のお金だが、単位がこちらの感覚よりも10倍なので、なかなかチョコレートひとつ買うのにも手が出ない。1500なんて書いてあるので即座に150円くらいか、と思えないのだ。いいことだが、やたらと値段が高く感じてしまうので気持ちが萎えてしまうことも事実だ。
2人はタッカルビ(らしきもの)僕は鯖の塩焼き定食(らしきもの)でお腹がいっぱい。
そして、僕は以前から食べたかったホットクを食べた。パンケーキみたいなものだ。
コンサートは夜。少し歩き回っていろんなお店を見て、会場に向かった。
素敵な図書館の一室のようなスペース。
コーヒー・ショップも兼ねているのだろうか。
40人ほどの人達。中にはキム君を良く知っていてブルーグラス・バンジョーを弾くという女性もいた。それに領事館関係のアイルランド人も数人来てくれたが、なんとその中の一人はカーロ―出身で、その上、彼のお父さんをキアラン君は知っているらしい。
世界は狭いものだ。キアラン君、興奮するの巻。
昨日のワークショップに参加してくれたみんなも来てくれて1時間10分ほど。みんなの反応も素晴らしく、心から楽しんでくれているように感じた。
1時間ほどのセッションもあり、終わってからもみんなで今度はチジミとビール、マッコリ、その他で遅くまで盛り上がった。
みんな音楽をこよなく愛している気持ちのいい若者たちだ。
ここまで、まだ食べていないプルコギと韓国ぜんざいを明日食べて帰ろうと希花さんと相談して、今日でキアラン君とはひとまずお別れ。明朝早くアイルランドに発ってしまう。
キアラン君、スーミー、そして名前を訊いたけどうまく発音できなかったみんな、本当に良い時間と経験をありがとう。
また会いたい仲間が増えたことがとても嬉しいです。
連日いい天気で良かったですね。晴れ男の面目も立ちました。みんなありがとう。