世屋高原 しおぎり荘 その2

さて、朝になった。きょうこそは少しだけでも降られるかな、と思ったが、外は陽が差している。

6時にスタッフの杉山さん(多分この字でいいと思う。椙の字かもしれないが)が宿泊場所まで迎えに来てくれる。

森の中にバンガローが沢山あって、こういうところが好きな人にはたまらないだろう。もちろんコンサートや食事をしたところも宿泊できるので、みんな飲み疲れたらすぐに眠ることもできる。

シャワーを浴びて、さぁ、朝6時半からの森の中コンサートだ。非常にリラックスしたムードでまず、バンジョーの音から響かせてみた。

ハープの音色に鳥たちも反応する。

まだ希花さんは8割くらい眠っているだろう。

僕や、椙谷さんのおかあさんくらいの年齢になると、もう2時間くらい前から起きているが。

40分ほど音楽を聴いてもらってから、朝ごはん。ガラス張りのひろーい空間で、景色を眺めながらの朝ごはん。何度めの極上気分だろうか。

朝ごはんのあとは、希花さんは眠りについたが、僕は秩父からやってきた高見さんや、椙谷さんのお母さんをはじめとする親戚一同の人達と山菜取りに出かけた。

僕は都会育ちなので、そういうものにはあまり詳しくない。というか、ほとんどなにも知らない。ぜんまいというのがくるくるしていることくらいしか知らない。

高見さんは詳しいらしく、歳の巧といえる椙谷さんのお母さんとともに、いろいろ解説してくれた。

おかげで、ふきがいっぱい取れた。

好きなだけ摘んで帰ってください、と言われたが他に荷物もあるし、そこそこにしておいたが、貴重な体験だった。

ここからは、それぞれのスケジュールで帰る人たちもいたが、やっと起きてきた希花を更にコーヒーで目覚めさせ、なんとなく練習がてら弾いているところに居残った人達も、コーヒー片手に集まって来る。

外は少しづつ雨粒が落ちてきて、霞がかかった世屋高原がまた違う美しいすがたを見せてくれている。

お昼御飯は“丹後すし”タンゴではない。ダンゴでもない。これまた絶品。今回は、椙谷さんの奥さんも急きょ厨房に入り、てんてこまいの忙しさだったので、ちゃんと挨拶も出来なかったが、彼女をはじめ、お料理を作ってくださった人達は、世屋高原の宝と言わざるを得ない。

コンサート参加費が10000円、ということだけで、しかも、かなり出かけるのには勇気がいる所、ということなども考えて、二の足をふんでしまう人もいるかもしれないが、これはそれ以上の価値がある。

あれだけの素晴らしい食材を使った素晴らしく美味しい料理と、飲み放題の数々、そして、あたたかいおもてなし、大自然の息吹を体に感じて、こんなに贅沢なことは生涯記憶に残るに違いない。

宿泊プランはお昼ご飯まで含めるとプラス5000円だが、朝ごはん、森の中の散策、お昼御飯など、これ以上のおもてなしはなかなかに存在しない。

とにかく美しいのだ。全てが。

椙谷さんは、気に入った音楽家たちと年に数回の音楽会をここで開催する。クラシックやジャズもここで聴ける。

ここは要チェックだ。

人生における何回かの極上のシーンのひとつに、是非、世屋高原しおぎり荘を加えて欲しい。

経営も維持もとても大変だと思うし、あまり有名になってやたらと沢山の人が集まってくれても、それはそれで困るだろうけど、僕らの思いとしては、もちろん音楽会にも来てほしいが、こんなに素晴らしいところ、そしてこんなに素晴らしい人達のことは、少しだけでもみなさんに伝えたい。

新幹線の窓をたたく雨の音を聴きながら、うとうとしてそんなことを思っていたら、品川に着いた。

もう雨は降っていなかった。

椙谷さん、杉山さん、厨房のお母さん達(すみません、全員のお名前を訊くの忘れていました)椙谷さんの奥さん、お母さん、親戚の人達、そしてここに集まってくれた全ての人達に感謝します。

高見さんも飛行機で伊丹まで来て、レンタカーですっ飛ばしてきてくれたらしいし、和歌山からも昔のお友達が来てくれました。そうそう去年に続き、名田庄村からも来てくれました。

もちろん京都からも。

でも、みなさん本当にいい時を過ごせたと確信しています。

僕たちは音楽しか提供できないけど、ここのお母さんたちはあんなに素晴らしいお料理でみんなを感動させてくれるし、椙谷さん、杉山さんの気くばりにも感動を覚えるし、その上に世屋高原の自然が語りかけてくれるのです。

また来年、逢えたら嬉しいです。

椙谷一族 撮影:高見さん