Ari,Mareka&Junji 秩父・大泉

梅雨だというのにいい天気。こちらにとっては有難いかぎりだ。もし、有山じゅんじと一緒だったらどしゃ降りだろうか。それとも彼はもう雨男を返上しているだろうか。「きょうは朝から雨~♪」聴こえてきそうだ。

さて、同じアリ始まりでも、アリちゃんこと、松田幸一さんとの2日間ツアーの始まり、はじまり。

よくありがちな、お互い少しずつやって、最後に数曲、というコラボではなく、最初から一緒に、というのが僕の考えで、それ用のレパートリーを用意するが、売れっ子のアリちゃんだ。なかなか音合わせの時間が無い。

それでもやはり歴戦の勇者である。それに関西人の血が騒ぐのか、すっとぼけた面白さで、なかなか笑わせてくれる。

秩父、ホンキー・トンクはご存知“鈴木まーちゃん”の歴史のあるお店。ミュージシャンなら誰もが逢いたくなる人物だ。

こちらもなかなかにすっとぼけていて、仙人のような人だ。

早速ぼくらを蕎麦屋に連れて行ってくれた。「最近知ったけど、なかなかに美味い店ですよ」と煙草を申し訳なさそうにすいながら言う。煙草は止めた方がいい。健康で長生きしてもらわないと僕らが困るからだ。

お蕎麦屋さんがどこにあったのかよくわからないが、ホンキー・トンクから車で20分ほどのところだった。

お蕎麦に天ぷらの盛り合わせ、それに欲張って、稲荷寿司までたのんだところ、想像以上に量が多く、また、お蕎麦はお店の外観からも容易に感じ取ることができるように、かなり美味しかったので、ついつい食べ過ぎてしまった。

まーちゃんは蕎麦の違いが分かる男だ。してみると、僕はあんどーなつの違いが分かる男だろうか。

近藤君のPA、根岸さんのお手伝いでリハーサル。外ではもう京都から稲子さん、奈良から谷口さん、大阪からわたる君という錚々たる顔ぶれが待っている。もちろん後から高見さんも合流である。

リハが終わってもお腹いっぱいの僕らは皆野駅ツアーへと出かけた。散歩である。つばめが飛び交っている。

「これだけ忙しそうに飛んでいるし、きっと雨やで」というありちゃん。でも最近は、つばめにすら天気を予測するのが難しいのかもしれない。

民家の軒先にふと目をやると、こどもたちが巣の中から首を出して、ピーピー言っている。しばらくみていると様子をうかがってあたりを飛んでいたお母さんが、えさをくわえてこどもにあたえてはまた飛び去って行く。

そんな光景をしばし眺めていると、続々とお客さんが登場。

まず、西島かんじさんと、いつものおとさんがオープニング・アクト。今回おとさんは娘さんとのデュオを聴かせてくれた。

 

 

そして、まだお腹一杯のぼくらはステージへとあがる。

近藤君のつくりだす素晴らしい音に乗せて、InisheerからOut on the Ocean。夜汽車から星めぐりのうた~Morning Starへ。ありちゃんのハスキー・ボイス、ハープとハーモニカ、そしてアイリッシュ・チューンにもっていくこのセットは僕らならでは、だろう。常に、“他の誰か”みたいではない音を目指している僕らにとって、ありちゃんは最良のパートナーかもしれない。

ハープでBanks of Suirを聴いてもらったあと、八戸小唄からReel Beatrice/Abbeyのセットで希花のフィドルさく裂、ありちゃんのバウロンもさく裂。そしてOcarina/Tatoo。

休憩を取って二部はDeclan/She’s Sweetest…のセットを僕と希花で。ありちゃんを呼んで再びハスキー・ボイスで“港”。ハーモニカでミケランジェロのあと、希花さんの、まだ新兵器と呼べるだろうコンサルティーナ登場。みんなでTour de Tille。会場のみんなとGood Night Irene、そしてハード・タイムス。La PartidaからFoggy Mt.BD。アンコールに応えてSi Bheag Si Mhor、それから遠路はるばるやってきたうちの一人、40年来の友である稲子さんのリクエストでOrange Blossom Special。一旦終わるが、嬉しい事に再びアンコール。みんなで“風”を唄ってお別れとした。

後は打ち上げ。まーちゃんのマンドリンを聴こう、という会、ではないけど、楽器を持たせたら、もう持っているだけでも雰囲気が伝わって来るまーちゃん。

今回も無理を言ってお願いしてしまった。でも、本当にまーちゃんのような人は貴重だ。だからタバコも少し控えて長生きして欲しいのだ。そんなこと言っている自分がいつ逝くかわからないが、生きている限り末長く付き合って頂きたいし、たくさんのミュージシャンをサポートし続けてくれるだろう。

いつもと変わらず美味しいお料理と美味しいビールで、ここのマスターにも、まーちゃんのスタッフにも感謝。まーちゃん、有難う。

 

 

 

さて、一路久保田さんの待つ、大泉生活文化研究所へ。なんかいかめしい名前なので、最初はどんなにビシッとした人が苦みばしって出てくるのかと思いきや、とても気さくな万年青春のような明るい人、久保田さんのところでは、もうここ2年半ほどの間に3回もやらせてもらっている。

希花のお気に入りの場所だ。そう、どこか世屋高原の椙谷さんを思わせる。場所のすばらしさも人柄も。

ありちゃんは初めて来るが、気持ちの良いスペースで早速コロンと寝そべって心地よい風に当たっている。

美味しいコーヒーをいただき、そうだ。今回は希花も新しいカメラで、バッテリーも充分入っていたので、まず写真を。中川イサトさんに習って食事や飲み物を記録しておかなくちゃ。あの人の場合、ほとんどそれだが、いや、そんなこというと怒られて友達から削除されてしまうかもしれない。くわばら、くわばら…。

今回は3人ということで、富沢君がPAを運んでくれた。いつも感心するが、音屋さんというのは音に対する知識、機械に対する知識だけでなく、力と根気強さも必須条件に入っているんだろうな、と思う。僕なんかあの数のコードを見ただけでイライラしてくるだろうな。

不測の事態にも即対応してくれる富沢君も強い味方だ。

外にはぞくぞくとお客さんの車が押し寄せてくる。今回も久保田さんが沢山の人を集めてくれているようだ。

またまた久保田さんの人徳のなせる技だ。

久保田さんのお孫さん、漢字を尋ねるのを忘れてしまったが、ゆうなちゃんは、みんなにトイレの場所を案内してくれている。トイレの神様だ。

曲目は2日間、大体同じものを用意したが、そこは昨夜のうちあげでの収穫、ありちゃんがKesh Jigをハーモニカで吹くことを知って、早速取り入れた。

夜2時頃打ち上げから帰ってきても、フッと目が覚めて、そうだ、KeshからOutOn the Oceanもいけるな、等と考えると眠れなくなる。職業病か、おかしいかのどちらかだ、ということは自分でもわかっているが、特にアイリッシュを名乗ってやっている人達はそれが当り前だろう。

結局、Paddyのバージョンはどうだったかな、Frankieは?もっと古くJames Morrisonは?あ、そういえばMichael Colemanにこんなセットがあった、なんていうことを考え始めると朝まで眠れなくなるのだ。

それはさておき、高見さんや、高橋夫妻(金髪のギャル奥さんの)北向さん、村松さん、省悟のいとこの坂庭君夫妻、いつも来てくれるハキハキした、言葉使いのきれいな男の子と美人の妹を引き連れたお父さん、高須クリニックにでも行っているのか、と思わせる若いお父さんと16歳のハンサムな息子、沢山の顔見知りから、初めての人まで、みんな喜んでくれたようだ。

僕らに出来ることは、いい音楽で久保田さんのような人に恩返しをすることだ。そのためには寝る暇も惜しんで練習することも大事だし、セットのことを練って練って考えることも大事だし、お話も、もっとちゃんとできなければいけないだろう。

取りあえず、沢山演奏して忙しいミュージシャンを演出するよりも、大切なことが山ほどある。久保田さんのような人をみていると、本当にそんなことを感じるのだ。

ミュージシャンにとって本当に大切な事は、人前に出て演奏することだけではない。寿司屋は8割が仕込みと後片づけだ、と思ってやってきた僕にとっては、ミュージシャンも一緒だ。

久保田さんも、あまり表には分からない8割のところをすごく大切にしている人だろうな、という気がする。

理屈はともかく、ありちゃんと僕、合わせて130歳、え?本当?今更ながらびっくり。それに25歳の希花。平均年齢を取るにはあまりにも希花が可哀そうだが、このトリオはなかなかに面白い、と僕は思っているが、どうだろう。

僕らふたりとも将来希花の患者になるだろうか。おー恐。

久保田さん、奥さん、どうもありがとうございました。みんな長生きして希花のお世話にはならないようにしましょう。彼女、手ぐすね引いて待っていますから。