2019年 アイルランドの旅 1

7月23日(火)プロローグ

東京は朝のうち雨。出掛ける頃にはすっかり晴れて暑くなって来た。

成田から韓国、仁川に飛ぶ。

第1ターミナルから第2ターミナルまで行くがその遠いこと。シャトルバスで20分。第1とか第2とか言うレベルではない。

もう他の空港に連れて行かれた感じだ。とりあえず乗り換えにも充分時間があったので良かったが、一つ勉強になった。

その第2ターミナルからKLMでアムステルダムに向かう。アナウンスはオランダ語と韓国語と英語のみ。

まぁまぁ快適なフライトだったが、びっくりしたのが着陸。さっぱり気がつかなかったくらいにスムーズだった。

そして、アムステルダムからダブリン。こちらの着陸も見事だった。KLMのパイロットは着陸が上手いのだろうか。

7月24日(水)ダブリン曇り17℃、まず無事ついた。そのままバグナルスタウン。キアラン君の家で猫と再会。もうすっかりThe 猫だ。

大きくなったが相変わらず人懐っこい。すぐに膝の上に乗ってきた。こっちも眠たいのによく寝ている。

2019年 アイルランドの旅 2 バグナルスタウン

7月25日(木)風が強く、嵐でも来そうな感じだが、牛はのんびり丘の上。色々荷物の整理や、連絡ごとなどで1日が潰れそう。

午後になると結局お決まりの雨が降ってきた。誰かが言っていたけど、アイルランドの天気予報は(前にも書いたが)曇りと雨と晴れの全てをとりあえず言っておけばいいのだが、最近はそれに雷、と言う言葉が加わっているらしい。新しいバージョンだ。あ、晴れてきた。

7月26日(金)やっぱり歳のせいか時差ボケが遅れてやってきたようだ。昨日は流石に疲れ果ててガン寝してしまったが、今朝は4時に目が覚めてしまった。半袖ではちょっと寒い。

外はシトシトと雨が降っていて風もそれなりにありそう。でも、裏庭では3~4匹のウサギがピョンピョンと跳ねている。うん、待てよ。ウサギは1匹2匹ではなく一羽2羽だったかな。こんなこともネットで調べれば即問題解決、という時代になった。

ちょっと調べてみると、諸説ある中で「獣類を食べることができなかった僧侶たちが2本足で立つウサギを無理やり鳥類だとこじつけた」という説があるらしい。宗教は怖い。「こじつけ」や「あー言えばこー言う」がまかり通ってしまうのだから。政治家の「おしつけ」や「あー言ってもこー返ってこない」というのとよく似ている。

ひとつも変わらない景色を眺めながらそんなことを思っていたが、お、そうだ。ひとつだけ変わっていることがある。

壁の時計がまともな時間を指して、しかも動いている。

夜。9時に忘れ物王者、ジョンがセッションに行こう、と迎えに来てくれた。

次から次へと運ばれてくるギネス。隣の若いアコーディオン弾きに飲んでもらった。僕はやっぱり2パイントが限界だ。

戻ったら2時。

2019年 アイルランドの旅 3

7月27日(土)朝からいい天気。だがこういう日に限って気が抜けない。午前6時半。庭に出てみると吐く息が白い。目の前をうさぎが跳ねていく。猫が子供のモグラを追いかけている。モグラは鳴き声をあげて逃げ回っている。遠くから牛の鳴き声も聞こえるが、こちらは誰にも追いかけられていないようだ。いろんな生き様があるなぁ。

昼すぎても全く曇ってくる気配もなく、結果的には今日は素晴しい天気だった。日陰は半袖では寒く、日向に出ると心地よい日差しが体を包んでくれる。

夕方からケビン・バークの弟さんの工房に出かけた。バイオリンの弓作り職人として、世界中で高名になっている人だ。

2年前に希花さんがオーダーした弓が「出来上がっているよ」と彼から連絡が入ったので、此れ幸いと出かけて行った。それも彼の住んでいるところがカーロウ市内なのですぐ行けるのだ。しばし歓談して、少し演奏もして帰ってきた。

ま、そんなこんなでそれから友人とゆっくり11時くらいまでディナーを楽しんだ。やっと外が暗くなってきた。

7月28日 (日)晴れ。まだ時差ボケが抜けないのか、遅くまで明るくて時間の感覚がつかめないだけなのかよくわからないが、体もだるいような気がする。歳のせいもあるかもしれない。

昼からフィドラーのデイブ・シェリダンと街に出かけた。

気持ちのいい1日だったが、日本では軽く30度超えているだろう。問題は湿気だ。

ここは湿気が本当に少ない。ギターの鳴りが全く違う。だが、湿気の問題だけではなさそうだ。空気の密度も濃いような気がする。空間が多いのかな。

例えば同じ部屋でも100人が入っている時と誰も入っていない時では音の抜けが違うだろう。そんなことなのかな?

よくわからないが、今日も全ての楽器が良く鳴っている。

いつもここで聴くフィドルのサウンドには日本とは違うものを感じるが、今回は弓が変わっているせいか出てくる音がさらに太く感じる。本人も言っているが、不思議な感触らしい。全く力を入れることなく最大限の深みが出る、ということだ。

彼は人それぞれのスタイルに合わせて作るらしいが不思議なことに彼自身はフルート奏者でフィドルは弾かない。なのにどうしてそれぞれのフィドル・スタイルに合わせたような弓が作れるのだろう。そして更に不思議なことに、それが世界で非常に高く評価されているという事なのだ。

唯ひとつだけ考えられるのは何をおいてもケビン・バークの弟ということなので、弾いた事ないけど弾いてみたらすごく上手かったりして。隠してたりして。な訳ないかな。

弓についての詳しいことは希花さんがどこかでお話ししてくれるだろう。何せバイオリンに於ける弓は楽器の一部だ。僕のギターよりも高額なんだから。

2019年 アイルランドの旅 4

7月29日 (月) 晴れ。

またまたいい天気だ。気温は21℃となっている。しばらくは特筆すべきことはないかもしれないが、こうしてその日その日の天気でも記しておけば記録にでもなるかな、と思っている。子供の頃は日記なるものを書いていたし、年が明けると「よし、日記でもつけよう」と思いつつ、5日ほどで忘れてしまい、もういいか!てなことになってしまう。

7月30日 (火)雨。

さほどに強い雨ではなく、時折サッと降ってはまた曇り空になるような寒々とした天気。気温は15℃。猫も丸くなっている。

なんかイギリスでは観測史上最高気温という話で38℃とか聞いた。

日本からもアイルランド大丈夫ですか?なんていうことを訊かれたが、どっこい、申し訳ないがここは寒い。

このどんよりした空と深々とした緑というのが最もアイルランドらしい感じがする。

アンドリューとも話をしていくつかの仕事のため、フィークルで会うことになったが詳しいことは会ってから。

また、アンドリューのお母ちゃんの部屋に泊めてもらうことになっている。

6時過ぎて少し明るくなってきて時折陽も差すようになってきた。でも上着がないと少々寒い。

明日はどんな日になるだろう。

7月31日  (水) 晴れ。気温14℃ 

もう今日で7月も終わりだ。こちらでは夏も終わり、これから秋になってくる。

2012年のこの日、小雨が降るドゥーランでルカ・ブルームと再会している。

2013年にはやはりドゥーランからこの日にはゴールウェイに来ている。やっぱり雨。

2014年はまたゴールウェイにいる。そしてやっぱり曇りのち雨。

2015年もゴールウェイ。人命救助、カモメの子供救済に明け暮れた年だ。

2016年、この年からカーロウに来ている。

2017年のこの日、アブダビに向けて飛んだ。気温45℃だって。そのうち日本もそうなるかも。

2018年のこの日はキアラン君とベルファーストに行っている。天気は良かったようだ。

やっぱり日記はつけておいたら後で面白い。2011年のことは日にちまで明確に書いていないのでよくわからないが、察するにケリーにいたようだ。その後ドゥーランを経由してフィークルに出向いた記録が残っている。

ところで今日は穏やかな美しい日だった。現在午後6時だが陽の光がサンサンと木立を輝かせている。

ツバメが20~30羽ほど低空飛行をしている。僕の足の周りまで降りてくる。猫が狙っているがそう上手くいかない。

猫パンチからジャンプまで色々試みるが縦横無尽に飛び回るツバメの群には対抗できないようだ。

日本はもう8月になったんだなぁ。

2019年 アイルランドの旅 5

8月1日   (木)曇り。

昨日の天気はどこへ行ったんだろうと思うくらいの寒々とした曇り空だ。昼からMick MacAuleyがやってくる。

Solasのアコーディオン奏者で現在Stingとのツァーで大忙しの人だ。

そして夜はDave Sheridanとのギグでカーロウ市内まで出向いていく。

スタートは8時頃。まずレストランになっているエリアで3人で演奏。それからが大変。隣り合わせになっているパブに行き、そこでセッション。トータルでこれも仕事。7~8人のミュージシャンを相手にお話と演奏に花が咲く。

結局終わったのが2時。それから歩いて行ける距離にあるDaveの家に行き、しこたま飲んだギネスの後のワインで語らいながらオールドレコーディングを聴く。もちろんLPレコードだ。

時間はどんどん過ぎていき、気がついたらもうすぐ5時。そのまま彼の家でバタン。

8月2日    (金)晴れ。

もう9時半になる。Daveが朝ごはんの用意をしてくれている。彼は多分6時頃にベッドに入ったような気がする。

先ずはかなり濃いエスプレッソで目を覚まし、ハムエッグとソーダブレッド、そしてレギュラーのコーヒーをいただく。

話はまたまた古い録音のことに及び、LPやカセットの、Daveが子供の頃に聴いたものなどを楽しむ。これがないとこの音楽を演奏している価値がない。

子供の頃からこの音楽を勉強し、プロの演奏家として生計を立てている人たちの話を聞き、実際に彼らが聴いてきたものを共有させてもらうなんて、幸せなことだ。

1時過ぎ、Daveに別れを告げて家を後にした。

希花さんは有無を言わせず運ばれてくるギネスの洪水とワインとで二日酔い状態。キアラン君、最近覚えた日本語で「トキドキフツカヨイ」なんてわけの分からないことを言っている。

8月3日    (土)曇り。

昨夜友人と10時頃出かけたキアラン君も割と早く1時頃には戻ってきたようだった。朝方は曇っていたが、お約束通りという感じで雨が降ったり日が差したりで肌寒い。

今日は一日ゆっくり過ごしたがこちらもお約束通りというか、突然ジョンがやってきてコーヒーを飲みながらペラペラと喋り、忘れ物はせずに帰っていった。

話の内容は、今晩大きなパーティみたいなものがあって、そこで少し演奏しようということだったが、そんな時のキアラン君の反応は社交辞令か「そうだな。じゃ行ってもいいかな。きっとマレカとジュンジも行ったら喜ぶと思うよ」という感じなのだが、ジョンが帰った後「何時ころ行くのかな」と訊くと「いや、行かなくてもいい」だそうだ。結構真剣に長~い話を聞いていたように思ったが、最初から決めていたんだと思う。でも一応しっかりお話を聞くところがキアラン君らしい。どこまでもいい奴だ。

晩御飯は僕がタコライスを作ったので、ワインを少しだけ飲みながらゆっくりできた。

2019年 アイルランドの旅 6

8月4日      (日)晴れ。

結局若い人たちより3時間ほど早く起きてしまう。何はともあれ色々と部屋の片付けや掃除など、やることは沢山ある。昔から結構早起きだったが、年がいくとだんだん極端になってくる。あれもやらなくちゃ、これもやらなくちゃとせかせかしてしまう。たまには希花さんのようにコロコロしたいものだが、性格なのかどうもそれができないのだ。

今日はいい天気だったのに夕方から急に激しい雨が降った。

そしてキアラン君の友達のフルート奏者で、ややこしいが、韓国人の母親とデンマーク人の父親のもとに生まれ、香港で育って今はスエーデンに住んでいる(逆だったかな)というマイケルというやつがやってきた。以前にも会ったので知っているのだが、相変わらずなに人だか混乱してしまう。4時頃来て結局帰ったのが10時半頃。

少しは一緒に演奏したが、ほとんど喋ってばかり。おまけに9時頃ジョンと誰だか見たことのある人も立ち寄ったのでいくらワインがあっても足りない。

喋って飲んで1日が終わったような気がする。アイリッシュみたいなものか。

8月5日  (月)晴れ。今のところ。

今日はキアラン君の誕生日なのでまた来客で忙しい1日になるかもしれない。

今現在ダブリンに滞在している栩木先生もやってくる。

今日はバンクホリデイ。元々は19世紀頃、なかなか休みが取れない銀行員のために設定された休みのようだが、今ではほとんどの人が休みを取っている。

因みにバンクホリデイではない祝日でも銀行は休みだ。

てな訳で通常動いているはずの電車などが来なかったりすることもあるようだ。

栩木先生から慌ててメールが入った。ローカル電車が待てど暮らせど来なくて、やっと乗ったので到着が遅くなる、という連絡だった。

のんびり行こうぜアイルランドだ。こんなことはよくあるので大丈夫。

駅で栩木先生をピックアップして、さぁそれからが大変。食事、ワイン、ビール、音楽、ポエトリー、おしゃべりでそろそろ4時。

まぁこんなこともよくあることだ。あまり時間がなかったのでせっかく来ていただいたのにどこも連れて行ってあげられなかったが

楽しんでいただけたと思う。

8月6日     (火)晴れ。

みんな眠りについたのがもう5時にもなろうとしていたのだが、それでも僕は7時55分に目が覚めた。ひとしきりキッチンの片付けをしてお茶を飲んでいたらDave Sheridanが起きてきた。これから歯医者に行くらしい。

続いて希花さんが起きてきて栩木先生も起きてきた。ジョンは朝早く帰ったようだが、結局昼過ぎに「僕のジャケット知らない?」ということになる。期待を裏切らない人だ。

12時頃キアラン君も起きてきて4人でランチを食べに出かけた。

栩木先生の乗る電車までちょっと時間があったので近くのBallymoon Castleという誰も来ない荒涼としたところにある古い城跡に寄ってみた。13世紀頃に建てられたという建造物だ。

しばらくその光景に目を奪われていたら徐々に雲行きが怪しくなってきてかなり強い雨と風が大地を覆った。僕らは朽ち果てた城壁に張り付くようにして雨宿りをしたが、すでにほとんどビショビショ。

それに電車の時間もあるので思い切って雨の中を走った。車までの距離は150メートルほど。草原を雨に打たれて走る、という旅の終わりに最高のシチュエイション。もちろん栩木先生にとって。

「あんたたちどこで泳いできたの?」と訊かれそうな濡れようだったが栩木先生も無事電車に乗ってダブリンへ戻っていった。

夜はMick MacAuley とのセッションにキルケニーまで出かけていった。戻ったらもう12時だった。早い方か。

2019年 アイルランドの旅 7 〜フィークル

8月7日  (水)晴れ。

お昼にBagnalstownを出て一路エニスへ。今日から恒例のFeakleフェスティバルだ。見慣れた景色の中、見慣れたような顔つきの人達と電車に揺られて数時間。

隣の老夫婦(と言えども僕より少し上か)がグミを持っていて、希花が「ひとつもらっていい?って言ってもいいかな」というので「頼んでみたら?」と言うと「そんなこと訊ける訳ないじゃん」と言うので「それじゃぁ僕が…」なんて言う押し問答をしていた直後、にっこりして「食べる?」と言ってグミを差し出した。

ひょっとして分かったのかもしれない。

乗り換えた電車では目の前に20歳くらいのがっしりした男の子が座っていたが、しばらく乗っていると蜂が窓に張り付いて行ったり来たりしている。

彼と目があってどうしようかと思っていたら、その子、そーっと自分のスマホを持ち、思い切り窓に止まっていた蜂を叩き潰した。周りの人も「Oh!」と驚いていた。蜂は見事に潰れて跡形もない。そして汚れた窓を眼の前にあった紙くずで拭いて、じっと自分の携帯を見つめ(もちろんこちらにも潰れた蜂の残骸が付いている)それを自分のジーンズで拭いて、何食わん顔をしてまたメールのチェックか何かを始めた。

ラグビーか何かやっていそうなかなり太い腕の若者。顔はとても幼かったが、やはり日本の若者とはちょっと違う感じがした。

Ennisに着いてからPat O’ConnorにFeakleまで乗せてもらった。今日は9時半からPepper’sで希花さんの大好きなフィドラーのマーク・ドネラン、Moloney’sでジョセフィン・マーシュとミック・キンセラ。

なのでここで僕らは二手に分かれることにした。

マークとのセッションでご満悦になった希花さんがジョセフィンの方に来たのは12時をちょっと過ぎた頃。

さらにこちらでも参加して結局1時半を軽くまわってしまった。

でも電車で爆睡したので元気だった。

どこに顔を出してもホストは大体知っている人がやっているので、とにかく入れ、と言われるのは嬉しいが、それまでにいる人達をかき分けて彼らと席を並べるのは、奥ゆかしい日本人としては気が引けるところもある。

しかし、いいミュージシャンによるいい音楽だ。

夜空に降り注ぐ星のように輝いている。

2019年 アイルランドの旅 8

2019年  アイルランドの旅 8

8月8日  (木)晴れ。

今日は一日エニスでゆっくりすることにした。明日からはおそらくゆっくりしていられないだろうし、体を休めておかないと。

それでも夜はどこででも行われているセッションでものぞいてみようと街に出る。

いかにもアイルランドらしい寒々とした雨が降っている。そんなに強くはないが。

いくつかのパブを覗いた中で、知った顔を見つけた。フランシス・カスティーだ。若いバンジョー弾きと、フィドラー、それに前日フィークルで出会ったベルギーからのフィドラーとオランダからのパイパー。そんな組み合わせで上質なセッションが繰り広げられていた。

バンジョー弾きのキーガンという若者が一生懸命になって椅子を用意してくれて結局、ちょっと覗いて帰るつもりがやっぱり12時頃になってしまった。

良い人ばかりの良いセッション。エニスの夜が更けていく。

8月9日  (金)曇り。

今日はTullaに向かうが、その前に腹ごしらえ。Dunnesというスーパーマーケットのカフェテリアでコーヒーやポリッジなどをいただいたが、安くて量もあって…とは言えども決して美味しいとは言い難いが、まぁ満足のいくものだった。

これからエニスではここが無難かな、という話に落ち着いたのだから決してそんなに悪いわけでもない。

さて、Tulla  アンドリューの家だ。第二の故郷。家の中の細かい配置などは多少変わっているものの、村の景色は少しも変わっていない。

あるべきものがあるべき場所にある。

おそらく初めてこの村を訪れた20年前と何ら変わらないのだろう。しばし感傷にふけった後Feakleに向かう。

Pat O’ConnorとJohn Cunnyのセッションで演奏。フェスティバルも週末になり、徐々に人が増えてきた。

Patはのってくると止まらない。次から次へとチューンを出してくるが、僕らは2時にPepper’sでアンドリューと待ち合わせをしているのでそろそろお暇します、ってな具合に身支度を整えると、一緒に弾いていたPatの奥さんのエリカさんがニコニコして「あ~助かった」と言っていた。それくらいにとどまるところを知らない良いプレイヤーだ。

さて、アンドリューは時間通りに待っていた。もう何杯くらい飲んでいるだろうか。もちろんタクシーを呼んでいるのでそれで帰るのだ。

アンドリューのお姉ちゃん、マリーさんのご主人であるケヴィンと4人で乗り込んでタラまで。約15分くらい。

さぁ、帰ってからが大変。

アンドリュー嬉しそうに「なんか録音しよう」と言って機材をキッチンにセットし出した。マイクロフォンをたて、フィドルのマイクを天井からぶら下げ、よれよれに絡み合ったコードをつなげる。「おかしいなぁ」と何度も何度も文句を言いながら、それでも何とか繋がっていざ本番。

もちろんシビアーなレコーディングには程遠く、デモテープくらいのものだが。録ったものを聴いてみると呆れるくらいに音がいい。

これは一つにはこの空気感によるものか。はたまたベロンベロンになったアンドリューのイーストクレア魂に僕らも引っ張られているのか。

思えば僕にとってはここから始まったようなこの音楽。そしてその僕と毎年行動を共にしてアイリーン・オブライエンやカレン・ライアン、マーク・ドネランなどの錚々たる面子に揉まれてきた希花。

そんな僕らと嬉しそうにしているアンドリューだが、果たしてこの感じはそのまま日本に持ってくることができるだろうか?否だろう。

ここまでの彼をみることはここ以外ではなかなかできないことかもしれない。

就寝は結局5時。日も短くなってきたので、そろそろ明るくなってきていたかな?よく覚えていない。

8月10日  (土)小雨

どうやら5時間ほどは寝たようだ。小雨の中、メインストリートを少しフラフラしてみた。200メートルほどしかないこの通りにレストランが2軒、ファストフード店が1軒、パブが4軒、肉屋が一軒、洋服屋さんが1軒、雑貨屋さんが一軒、20年前にできたばっかりの自然食やさんが1軒、美容院が一軒、食料品を売っている大手の(決してでかくはない)マーケットが1軒、しょぼい食料品屋が1軒…これで終わりかな。もしかしたらもう一軒くらい雑貨屋さんがあったかな。あとクリーニング屋もあったか。僕がよくアンドリューの服を持って行ったり受け取りに行ったりしたところだ。

みんなどうやって生活しているんだろう。

僕らは、僕が初めてここを訪れた時にできたばかりのレストラン「Flappers」で食事をすることにした。僕はケイジャンチキンラップ、希花さんはバーガーというこの辺りではお決まりの間違いないものにしておいた。

何にせよ、各自一緒についてくるチップス(フライドポテト)の量たるや、マクドナルドの大の5個分は軽く超えているだろう。とても食べきれるものではない。

それを横の爺さん婆さんが普通に食べている。

さて、4時半頃ケヴィンの車で、僕らとアンドリュー、そしてお姉ちゃんのマリーさんとでフィークルに向かう。

5時からアンドリューと。10時からジョセフィンと。

2時半を過ぎた頃、ジョセフィンと共に帰宅。帰ってきた頃には上がっていたが、結局今日は一日中雨だった。

8月11日  (日)晴れ、時々小雨。

久々にこちらに在住の赤嶺くんとゆっくりお話しした。それと京都大学の院生で、やはりこちらに長期滞在していて、もうすぐ戻るらしいけど、なかなかしっかりした学生さんの雨宮さんも交えて食事。

楽しいひと時も過ぎて行き、これまた別な楽しさのアンドリューとの演奏で8時頃まで。アンドリューは別なものが6時からあるので、僕らに任せて一足先に抜け出したが、最後までいいセッションだった。もちろんまだ続けることも可能だが、9時半からまた呼ばれている。

ピート・クイン、カレン・ライアン、アイリーン・オブライエン、アンドリュー、そして僕ら、という不動のメンバーだ。

さぁさぁこれがまた止まらない。お客さんの「狂喜乱舞」とはこのことだろう。全員の「鬼気迫る演奏」というのもこのことだろう。

パブの従業員が「もういいだろう」と言ってもなかなか止まらない。

それでも2時半にパブを出て前庭のベンチに座り又しても「さぁみんな楽器を出そう」と言い出すアンドリュー。そこで始めて時刻はもう

3時をとっくにまわっている。

ケリーから来ていたフィドラーのカップル達と家まで戻った。それからアンドリューが「昨日の録音を聴いてみよう」と言いだし、しばし歓談。又しても4時は軽く過ぎていた。

8月12日  (月)晴れ。

朝から…と言えども昼近くから恒例のハムサンドを作り、アンドリューの提案で3人のビデオを作ることになってスマホの操作に奮闘。

これもラフだが録音をした音を流し、ビデオを録った。ご満悦のアンド流。お、これも面白い変換だ。

今日はエニスからカーロウに向かう。

アンドリューの車に揺られて又してもしばしクレアの景色に魂が溶け込んでいた。

エニスから乗換駅のリムリックに行く電車の中で見慣れた顔の男が声をかけてきた。アレックだ。アレ、ビックリだ。

ちょうどゴールウエイからリムリックに帰るところだ、と言っていたが偶然にもほどがある。まぁ電車の数も少なくて、京浜東北線や阪急電車で誰かに出会う確率よりは多いのかもしれない。

久々にキアラン君とチャイニーズをテイクアウトしてゆっくりし、今日は12時前くらいには寝たいな、と思っていたが気がついたら2時にもなっていた。クレアからの時差ボケか…?

2019年 アイルランドの旅 9 ティペラリー~ドゥーラン~エニス~ゴールウェイ

8月13日  (火)晴れ。

さぁ、洗濯だ。ここではタイミングを見計らって洗濯しないといつ雨が降ってくるかわからない。と考えるのは日本人だけかな。隣の庭では3~4日同じ洗濯物がたなびいている。

1時頃、パディ・キーナンが会いにきた。家からここまで1時間ほどだ。

途中雨がぱらついたり急に晴れたり忙しい洗濯物の行ったり来たりだった。

8月14日  (水)晴れたり曇ったり雨が降ったり。

この天気、なんて言ったらいいの?曇り時々晴れ、所により雨?今もよく晴れているのに雨が降っている。

明日からまた出かけるので、今日はその準備やら体を休めることに当てた。

キアラン君は今日からドイツに行った。

8月15日   (木)晴れ。

今日はティペラリー、パディの家に向かう。旅も後半になってくると俄然忙しくなってくるのは毎度のことだ。

まず、街でお茶を飲んでいると、偶然外を通りかかったパディ・グラッケンをパディが見つけ、しばしお話し。僕らだけでは「似ている」とも思わず通り過ぎたかもしれない。

店を出てしばらく歩くとマーティン・ヘイズとも出会った。今、ここではフェスティバルがあるのでいろんなミュージシャンが来ているし、街もかなり賑わっている。

そんな街の喧騒を後に、僕らは早々とティペラリーに向かった。

途中食料品を少し買って家についてから、犬のティミーと遊んで疲れたので早く寝ることにした。

8月16日        (金)雨のち晴れ。

11時半出発でEnnisに向かう。途中少し寄り道をしたが2時頃到着。今日は夜からBlakie O’Connellのセッションがあるのでそれに出かけるために体を休めておく。まだ若い彼のパワーというのはすごいものがあるからだ。

パディとブラッキーのダブルパイプスにダブルブズーキ。シボーン・ピープルスと希花のツイン・フィドル、それにフルートと僕のギター、途中から加わった凄腕のコーク出身のパイパー。

そんな面子で往年のボシー・バンドのセットを12時半頃まで演奏。

これくらいではもう疲れることもないが、また明日もあるのでおとなしく寝ることにした。まぁ、やたらと運ばれてくるギネスにももう大変な思いをしているし。

8月17日    (土) 晴れ。

今日も11時半に出発でDoolinに向かう。パディも歳のせいかあんまり遅くまで寝ていられないらしい。本当は3時頃出発すれば十分なのに。

今日はここのパブでの演奏に参加するかしないか自由だったし、久々のDoolinなのでぶらぶら散歩して、あの時のロバとも出会った。

しかし、観光客が次から次へと大量にバスでやってきてここで料理をいただく様は、静岡の丸子にあるとろろのお店を思い出した。

日本平や久能山、三保の松原などを巡った観光客の一団が次から次へとやってきてとろろを食べる。ここではアイリッシュ・シチューだ。

観光地っていうのはお国が違っても一緒だな。

8月18日    (日)雨のち晴れ。

Doolinを2時過ぎに出て、Ennisでパディと別れ、そこからゴールウェイに向かった。

この期間、偶然にも少しだけ旅をしていた小田原の早野・古矢組と食事をし、その後芳美さんと歓談。

この地を訪れたら必ず会いたい人の一人だ。2015年以来、強い絆で結ばれているかのような彼女は、相変わらずバイタリティに満ち溢れている。それだけに疲れも溜まっているみたいだと言っていたけど、どうか元気でいつまでもゴールウェイのママとして君臨してほしい。

8月19日    (月)晴れたり降ったり。

少しの時間をみて、芳美さんに挨拶をして、ちょうどお店にはアコーディオン弾きのかなこちゃんもいたのでしばらくお話しした。 

また旦那のブライアンと日本に来る予定があるので、彼女の華麗なアコーディオンプレイはどこかで聴くことができるだろう。

後、ダブリンに向かい、空港でキアラン君と待ち合わせ。めでたくカーロウに帰ってきて、食事をしながらしばし歓談。12時も過ぎたし、ここの静けさに包まれて眠ることにした。 

2019年 アイルランドの旅 10 コーク

8月20日   (火)曇りのち雨のち晴れ。気温11℃

明日からまたコーク。マット・クラニッチのところに出かける。

2014年に初めて彼の家に行き、貴重な資料の数々を聴かせていただいてからもう5年。また様々な人に会わせてくれるらしい。

なので、又してもお泊まりセットの準備にてんてこ舞い。

8月21日   (水)曇り。現在14℃で少し降りそうな感じ。

毎朝、猫たちはどこに行っているのか姿が見えないが、それぞれにフラっと戻ってくる。オスの方はこの上なく汚くなって帰って来て、腹が減った、と言わんばかりにニャーニャー叫ぶ。メスの方はそこまででもないが何故か部屋の中を走り回る。

ところ変わってマット・クラニッチの家。スリッパーと言う名の猫が出迎えてくれる。彼は長年のパートナーであるチャーリーを失ったばかりで寂しそうにしている。僕らにも一生懸命擦り寄ってくる。なんと言うか、猫も人の子みたいな感じだ。

8月22日    (木)曇り。

コーヒーをいただいて、少しだけシリアルもいただいて、マットがお医者さんのところへ定期検診に出かけて帰ってくるのを待って、

僕とマットはウォーキングに。2018年の9月1日に一緒に歩いた公園だ。帰りにコーヒーショップへ寄って、サンドウィッチとコーヒーをいただく。希花さんは奥さんのリズとどこかへ出かけている。

思えば、2014年9月5日の金曜日にここを初めて訪ねて以来、毎年、と言うわけにはいかないが、必ず連絡を取り合って来れるような時にはいつでも来てお世話になりっぱなしだ。

夜、6時からのコーナー・ハウスでのセッションに出かけたが、見たような顔がコンサーティナを持って現れた。Niall Vallelyだ。聞いたところによると弟のCillianも1週間前に来ていたらしい。彼とは親しかったので会いたかったなぁと思うが、とりあえず挨拶をする。

ほんのちょっぴりサンフランシスコであったことを覚えてくれていたようだ。今はコークに住んでいて、弟は彼を訪ねてやって来ていたそうだ。他にもNYからのバンジョー弾きが来ていたが、彼は僕のことをミック・モロニーと大学で演奏した時に見たと言っていた。

世の中狭いもんだ。

相変わらずパイパーのオーイン・オリービーとフィドルのジョニー、それに今日はエイダン・コフィーも加わってすっ飛ばす。

非常にしっかりしたトラッドの価値あるセッションだ。

戻ってからまたまた絶品料理をいただいて軽くワインを飲んで今日は早く寝ることにした。

8月23日   (金)晴れ。

今日はコーク市内に出かける。観光メインだが、その前に少しチューンを弾いて。

コーク市内ではこちらでバイオリンの修理などを手がけている、アコーディオン弾きの「はるあき君」の工房を訪ねる。

途中でカフェに寄って甘いものとコーヒーでひと時を過ごすが、僕のオーダーしたエクレアは日本のサイズの5倍ほどの密度だ。これでもかと思うくらいのクリームが挟まっている。希花のメレンゲにも思い切りクリームが乗っかっている。これで十分ディナーサイズだ。それに大きなサイズのコーヒー。そりゃみんな大きくなる。今更だが。

そして又しても奥さんのリズが用意してくれた素晴らしいディナーとワインで話が弾み、沢山のチューンを演奏した。じゃぁ最後の曲、と言いながらそれからも何曲演奏したことだろうか?

ベッドに入っても頭の中は沢山のチューンがまだ流れている。

8月24日   (土)晴れ。

今日は午後からFlannery Sistersの家に出かける。去年の8月31日に訪れて以来の約1年ぶりだ。お姉ちゃんが18歳、妹が15歳と言う、この地方きっての良いミュージシャンだ。因みにもうすでにオールアイルランドチャンピオンはいくつも獲得している。

彼女たちの学校が始まる前にまた是非来て欲しいと言われていたので、クラニッチ夫妻とともに出かけていった。

お姉ちゃんの方は少し大人っぽくなったかな、と言う感じでフィドルプレイもかなり力強くなったみたい。妹の方はヒョロっと背が伸びて、完全に僕より大きく、コンサーティナやティンホイッスルの腕前はもう言葉を失うほどだ。

食事の後のセッションで感じたことを率直に言うと、こういう子たちの土俵を荒らしてはいけない、と言うことだ。毎年それは思うことだが。

食事しながらでも古い録音が流れていて、本当に小さい時からこの伝統音楽の真の姿を追い続けている子達がコンペティションに出るべきであって、冷やかしでのこのこ出かけていくべきではない。

だから、この子たちの伴奏をするときは細心の注意をはらわなくてはいけない。そうしてこちらも学ぶことができるのだ。

夜遅くまで付き合ってくれてありがとう。

戻ったらもう2時にもなろうとしていた。

8月25日   (日)晴れ。

クラニッチ夫妻に送っていただいてカーロウに戻る。また次なる目的のために少し体力温存。

この上ないくらいのおもてなしと、この上ないくらいの天気に恵まれてリズとマットに大感謝のままお別れをした。また来年、元気なままで会おう、と約束して。

2019年 アイルランドの旅 11 バグナルスタウン

8月26日   (月)晴れ。

見事な快晴。風は涼しいが、多分20℃くらいかな。気持ち良い日差しに誘われて少し歩いてみる。牛が遠くでモウモウ言っている。

ほとんど雲ひとつない、と言える空の下、緑が生い茂ってその先に見えるのは牛と馬と羊くらい。

早く歩くと少し汗ばむくらいだが風が冷たくて気持ちいい。

夜は夜で星がいっぱい見える。たまにはこんな星降る夜に外で寝ながら星を見つめていたいな、と思ったりもする。

8月27日   (火)晴れのち曇り。

昨日のようなわけにはいかないが、よく晴れている。でもお昼前から曇ってきて夜は一雨あるかな?と言う感じになってきた。相変わらず涼しい風が吹いている。気温は17℃となっている。

今日はゴールウェイのママ、芳美さんが週に1日だけの休みを利用してここを訪ねてくる。

あまり遠出もできないので、また近くのBallymoon Castleに行ってみるが、今度は雨に降られることなく無事帰ってくることができた。

いつもゴールウェイの街中で過ごしている彼女は、この何もない景色に感動しっぱなし。

良い休日を過ごせたようだった。

8月28日    (水)晴れ。

このところいい天気が続いている。結局昨夜も雨は降らなかった。

8月29日    (木) 晴れ。

今日からCo.Meathに行く予定が一日ずれて明日になったので1日またゆっくりする余裕ができた。

今現在(朝の8時)気温は11℃ということだが週末には8℃とかになるそうだ。

さっき猫のメスの方(コムギ)がどこからか小さなネズミを咥えて帰ってきた。ネズミは瀕死の状態。コムギは猫パンチを食らわすわ、口に咥えるわ、放り投げるわ、完全に遊んでいる。オスの方(オコメ)はとろ~んとした顔をして眺めている。やがて子ネズミは絶命したらしいが、まだ弄んでいる。猫もライオンのようにメスの方がハンティングするらしい。

シティーガールの希花さんは終始逃げ回っていたが、あまりに可哀想に思ったらしく、勇気を振り絞って庭に埋めてあげ、小さなお墓を作って一件落着。

明日からはまたCo.Meathだ。

コムギ
オコメ

2019年 アイルランドの旅 12 カウンティ・ミースとウエストミース

8月30日    (金)曇り。

Co.Meath とCo.West Meathの境。 2014年に知り合ったリアムという人が彼の家にいく途中に色々連れて行ってくれる。Hill of TaraやLough Crewなど、今までに来たことがないところ。そこはアイルランドの歴史上で最も重要なところだと聞いた。360度見渡せる丘の上からほとんど全てのカウンティが見える、風が吹き荒れる絶景は確かに今まで行ったところのどことも違う感じがする。

5000年もの歴史にしばし感動して家に戻ってみんなで食事。

実は、ここに来ている理由だが、2014年の8月1日(金)にゴールウェイで出会ったバンジョー・ボーイ、彼のお父さんに毎年「チャンスがあったら来い」と言われていたからだ。

なので、夜には地元のパブでセッション。いつもやっているシンギングがメインのセッションだが、みんなそこそこの年で古いフォークソングなども飛び出す。

ダラウ(バンジョー・ボーイ)も18歳になり、バンジョーの腕前も冴え渡っていたが、こういう風に大人たちの歌を聴きながら、自身も歌うようになり、そしてバンジョーを弾く。そんな地元の人たちの愛情に包まれて成長していく姿を見るのはいいものだ。

余談だが、父親のリアムは、僕らが時々会っているカーロウで家具作りをしているダラウ(このコラムでも登場している)のいとこだ。

そんなことは全く知らずにコンタクトを取っていたがある日それが判明した時には驚いたものだ。世の中狭いもんだ。

8月31日   (土)快晴。

リアムと奥さんのアイリーンは朝早くからハーフ・マラソンに出かけた。ここの家族、とてもアウトドアー志向が強く、山登り、スポーツ、キャンプ、サーフィンなどしょっちゅう出かけるようだ。

2014年にアコーディオンを弾いていた妹も今ではハンマー投げの選手として高校で活躍しているらしい。あの時はまだ子供だったが、しっかりした筋肉質でいかにもスポーツ選手という感じだ。その下にもう一人妹がいるが、こちらもティンホイスルを吹く。ちなみにお母さんはコンサーティナを弾くが、走ることの方に今は重点を置いているのであまり弾いていないそうだ。

ちなみにリアムはバンジョーを弾く。こんな家族構成で家の中は賑やかだ。

一番おとなしいのは長男のダラウ。やっぱり女の子は社交的なのかもしれない。

午後からはKillua Castelというところに連れて行ってもらった。これまた素晴らしいところで、最初は突然の土砂降りで一時はどうなるかと思いきや、すぐにこの上ないくらいの天気に恵まれて、広い広いところを歩いた。羊も馬も気持ち良さそうに草を食べている。

途中、友人のところに寄る、と言ってある家の前に来た時「ここには、なんていうんだっけ。首の長い毛皮が取れるなんか南米によくいるらしい動物がいるんだ」とリアムが言ったが、それはなんとアルパカだった。

とんでもなく広い裏庭にアルパカが7~8頭いる。中には生まれたばかりのも居る。鶏も同じところを歩いている。猫もやってきた。

この家の持ち主である彼は、様々な楽器を作り、自分の家は自分で全て作り、スピーカーも作り、アンプも作り、アルパカの毛皮を売ったりしながら生活している。とても人のいい素晴らしい人だった。

夜、また地元の別のパブに行って演奏。そこはまるで船に乗っているような作りだったが、外から見るとただのバラック小屋みたいなところ。それでも10時過ぎたら人がいっぱい集まるから不思議だ。

結局2時半頃戻ってきて、満天の星をしばし眺め、紅茶を飲みながらお話しして、4時近くに寝床に入った。

9月1日   (日)晴れ。

今日は昼からBog(泥炭地)を歩きにいく。荒涼としたヘザーが生い茂る場所。アイルランドの人たちが冬を越すためになくてはならない

ターフ(turf)が作れるところだ。

アメリカや日本でturfというと、多くは芝やゴルフのグリーンを意味するらしいが、アイリッシュのターフというのは暖炉にくべるためのものを言う。ドライピートという言い方もできるらしい。

ダラウとその友人たちは朝早くからそれを掘り起こす仕事に出かけている。それはそれは大変な体力が要求される仕事だ。僕らは掘り起こされたターフが綺麗に並んで乾かされているのを見ながらひたすらヘザーの湿地帯を歩く。靴の底がクッションの上を歩いているみたいでなかなか気持ちがいい。

しかしそんなことを言っている場合ではない。ここで働いている彼らはアイルランドの歴史をそのまま受け継いで、そうして彼らの音楽も演奏している。

今回のミース滞在は少し今までとは違ったかもしれない。

今までは圧倒的にミュージシャンの家に泊まることが多く、本当にこの音楽のあるべき姿を彼らを通して見てきた。

しかし、今回は普通の家庭で子供達も一緒になってご飯を食べて、彼らがそれぞれ力仕事に出かけたり、女の子は家のことを手伝いながら、また夜な夜な音楽を楽しみに出かけていく。両親もそれをサポートして一緒になって出かけていく。

そんな姿を目の当たりにすると、この子たちはこうして育っていって、その中にはプロのミュージシャンになる子もいれば、そのまま地元で仕事をしながら音楽を楽しむ子もいる。そんな中に強烈にうまい子も沢山いる。

近所の子や親戚の子も沢山現れてどれが誰やらわからないけど、完全にごく普通の家庭の中に入って音楽を演奏したことは結構新鮮なできごとだったかもしれない。

しかし、どうしてどこのパブでも演奏する人に対して湯水のようにビールが出てきて、サンドウィッチまで出てきたりするんだろう。

晩御飯を食べた後の次から次へと運ばれてくるビールと、フライドチキン、ポテト、サンドウィッチ、サブマリンなどが山盛りのプレート。もう何が何だかわからなくなってしまう。

特に田舎ではこうして音楽を演奏する者に対するリスペクトが強いようだ。日本でいうアイリッシュパブとはかけ離れたものがある。

帰りは、リアムの両親がなんとカーロウから来ていたので彼らと一緒に帰ってきた。

そして、旅もそろそろ終わりに近づいている。

2019年 アイルランドの旅 13

9月2日  (月)曇り。

気がついたらもう9月。本当に歳とともにその日その日が早く過ぎてゆく。そしてここはもう冬に近づいている。上着がないととても外でじっとしていられない。特に今日のような天気では。

ここから先は帰国まで特筆すべきことはないかもしれないが、とりあえず日記感覚で書いていこう。世の中何が起こるか分からないので。

先生のキアラン君も始まったばかりの学校は結構いろんなことがあって忙しいみたいだ。

「あ~忙しい。あれもしなくちゃ、これもしなくちゃ!」と言いながらギターを弾いて歌い出す。挙げ句の果てにいいワインがあるから君たちが飲んだらいい、と言って高級ワイン(日本ではかなりお高い)をあける。そしてさっきまで「明日は早いからもう寝なくちゃ」と言っていたのにカウチに座って自分もワインを嗜んでいる。「うん、これはいいワインだ!」なんて言いながら。

さすがアイルランド人。

9月3日   (火)曇りのち晴れ。

天気予報を見ると一応雨マークもついているが、降水確率は0パーセントだそうだ。

夕方から少し晴れ間が出てきたが、今日はここで初めて暖炉に火が入った。昨夜あたりから寒くて、そろそろ炊くか、と話していたところだ。先日ティペラリーに行った時も寒かったが、あれからしばらく暖かい日もあったので、久々の暖炉だ。

今は夕方の6時ちょっと前。まだ明るいし猫は2匹ともどこかへ出かけている。

9月4日   (水)晴れ。

気温は15℃でよく晴れている。どうやらこのまま冬がやってきそうだ。

昨日、久々にジャックと電話で話をしたが、相変わらずゆっくり喋る。キアラン君は僕らの知っている人の中でもかなり早口だ。大体アイルランド人は結構早口のような気がする。

そんな中、BOMのニュース・レターでジャネット・カーターのCDが紹介されているのを見て、そういえばあの人たちすごく喋りがゆっくりだったなぁと思い出した。そして久々にカーター・ファミリーミュージックを聴いたり、彼らのホームグラウンドをユーチューブで見たりして色々思い出していた。

ありゃ、雨が降っている。とても降りそうでなかったのに。まさに山の天気。ありゃ、ものすごく晴れてきた。

今晩も暖炉を炊かなくてはいけないだろう。と思っていたが8時半現在、そんなに寒くない。昨夜はなぜあんなに寒かったのだろう。

今、ポルトガルのビールSuper Bockを飲んでいる。何気無しに調べてみたら日本にポルトガルビール「スーパーボック」ファンクラブというのがあってひたすら感動してしまった。

先日キアラン君がスペインに行っていた時に大量にワインやビールを買ってきたうちの一本だ。日本では限られたところでしか手に入らないようなのだが。と言ってもアイルランドも一緒か。だから買ってきたんだろうなぁ。

9月5日    (木)薄曇りのち晴れ。

こんな日の方が比較的安定していることが多い。

どこへ行っていたのか、2匹の猫が戻ってきて、ニャーニャー騒いでいる。オスの方は今日もまたひどく汚れているし、お腹が空いたと騒いでいる。散々食べた後でも僕がちょっと動くと「お、飯かもしれない」という顔をしている。

メスの方は落ち着いて窓際族になっている。

そんな平和な状況だが、ニュースで京急の事故のことを知った。

群がってスマホ撮影をしている人たちが今の時代を象徴しているようで殺伐としている。思えば、他人が大変な思いをしているのを画面で眺めるのは湾岸戦争あたりから始まったのかなぁ。それが今や個人的な小さな画面で撮影しているが、事故の現場をインスタ映え、などと言わなければいいがな、と強く思ってしまう。ま、それは心配のし過ぎか。

今日は暑くなってきた。朝とは違って快晴。気温は15℃、これで暑いなんて言っていたら怒られてしまうかな。

9月6日    (金)曇りのち晴れ。

昨日も今日も朝のうちは一雨来るか、と思わせる天気だが、かなりよく晴れてきている。

オスの方は昨夜から見ていない。またどこか遠くへ出かけているのだろう。

そろそろ帰り仕度をしなければならない。

キアラン君はこのところ学校がかなり忙しいので、今日は帰ってきたらガンガンに寝る、と言っているが、その前に明日のためのチキンをオーブンに突っ込むと言って張り切っていた。

先日、丸のままのチキンを買ってきた。3ユーロほどでかなり大きな鶏1匹買える。それを土曜日に食べようと言っている。

なんか見たところすでに味付けされているみたいだし、あとは野菜でも一緒にバットに入れて、下の段にジャガイモを丸のまま入れればそれでいい。いかにもアイルランドのメシだ。

この旅のレポートもあと1話くらいで終わりになるだろう。またこの音楽について色々と思わされるところがあった今回の旅。どんな風にまとまるかまだわからないが、1ヶ月半ほど、長いようで短かったような、以前はよく3ヶ月も来ていたなぁ、とも思う。

今晩は寒くなりそうな気配だし、暖炉の火でも眺めながらワインでもいただこうかな…。

2019年 アイルランドの旅 14

9月7日    (土)曇り。

2019年はどんな旅になるだろうか、と言って2018年の旅のレポートを終えている。毎年いろんな刺激を受けているが、それがここにいると結構日常になってきた。いいのか悪いのかはわからないが、とにかくもう普通に溶け込んできていることは確かかもしれない。

特にバグナルスタウンやタラの田舎ではあまり見ることがない日本人のはずだが、もうすっかり地元に溶け込んできたように感じる。

それはいろんな人種がいるダブリン、エニス、リムリック、コークなどとはまた違う感覚だ。

もしかしたら人によっては、どこの田舎にもあるチャイニーズレストランの人間だと思っている人もいるかな?

9月8日    (日)晴れ。

そろそろ自身の70歳を記念する企画に伴ってのアルバム作りのことを真剣に考えなければいけない。いくつかの曲はスタンダード・チューニングで弾いた方がいいので、その練習もしなくては。

1991年以来、ほとんどスタンダードな調弦はしていないので1弦をEに上げるだけでも怖い。マンドリンの人とかディキシーランドジャズのバンジョーの人とか弦を張る度に寿命が縮まるんじゃないかな、と思ってしまう。

ギターの弦はそこまでテンションがきつくないが、それでも今のチューニングに慣れてしまうと結構怖い。

録音では12弦ギターも使おうと思っているがいつも一音下げてチューニングしている。3弦の細い方の弦はかなり怖い。

あー、弦を張らなくていい楽器はいいなぁ。バイオリンも顔の近くで弾いているから切れたら怖いだろうなぁ。

エレベーターの隙間に鍵が落ちるよりも確率は高いだろう。などなど、しょうもないことを考えているうちに時間が経ってしまう。

人生は短い。でももう70年も経つのか。結構長いなぁ。

ところでチキンは完食。ケンタッキーでこんなに食べたら1万円くらいになりそうだ。野菜も沢山入ってチキンは400円程度。みんな大きくなるはずだ、と、またまた感動してしまった。

そんな矢先、3日ほど出かけていたオスの猫が戻ってきた。なんだか顔も体も傷だらけでおまけに前足を引きずっている。とりあえず、様子を見てから病院に連れていくことを考えている。

9月9日    (月)曇り時々晴れ。

現在朝の8時。風が強く、寒々としているが後から良い天気になりそう。

バグナルスタウンに別れを告げに行ってみたが、いい意味で全く何も変化のない本当にのんびりした町だ。歩いている人たちもいつもと同じように見える。

美しい川を白鳥や鴨が泳いでいる。そして今日はおまけにカワウソまで泳いでいた。非常に珍しいということだ。キアラン君も話を聞いて驚いていた。

旅の終わりはいつでもせわしない。いろんな人にお礼を言わなくちゃ。

明日で今回の旅も終わり。明日はキアラン君と外食することになっている。

今日は僕の作ったビーフシチューとキアラン君がスペインで買ってきてくれたワインで乾杯。そして早く寝ることにした。

9月10日     (火)晴れ、

朝7時現在、気温は4℃だそうだ。東京の気温を見てみたら34℃になっている。30度の違いはでかい。

いよいよ明日、ダブリンからまず韓国に向けて飛ぶ。このところ不仲という話になっている韓国だがたくさんの友人が出迎えてくれることになっている。彼らとの絆は深いはずだ。

2019年アイルランドの旅は一応今日で締めくくろう。来年はいよいよ2020年。ただ単に割り切れる数字と言うことだけでも色々と特別な年になるかもしれない気がする。

体さえ丈夫ならば、また2020年アイルランドの旅というものを書いているだろう。

 

2019年 アイルランドの旅 15 まとめと韓国訪問

9月11日(水)

朝、ダブリンに向かう。いよいよ今回の旅も終わりだ。雨が降っている。

そのせいか気温はすこし高く16℃ほどあるそうだ。

ダブリン空港で見た顔が人ごみの中を歩いてきた。ジェリー・バンジョー・オコーナーだ。

「ジェリー?ジェリー・オコーナー?」と声をかけると「やぁ、どこかで会ったなあ。どこだっけ?」「ロングフォードのバンジョーフェスティバルだよ」「あーそうだ!随分前だったなぁ」そんな会話を交わし、彼は「ド二ゴールに行くけど、君たちも気を付けて」と言い残して再び人ごみの中に消えていった。

僕等もこれから韓国に向かう。

アイルランドではことしも沢山の出会いがあったし、いろんな人達にずいぶんお世話にもなった。

また来年来るだろうけど、彼等には本当に感謝している。毎年ちっとも変わらず、様々な面倒をみてくれる彼らは僕にとって貴重な存在だ。僕も彼らにとってそんな存在になりたい。

さて、ここからは韓国。(9月12,13日)

2度目の彼等との交流は、とても価値あるものになった。

彼等はとてもあたたかい。

そして、いいプレイヤー達だ。願わくば、どんどん外へ出ていって体でリズムを感じて欲しいし、もっともっと心からプレイできるようになるといい。

彼等はきっと今よりもいいプレイヤーになれると思う。今でも充分心を感じる人達だし。

そんな彼らに大感謝だ。

美味しいものをいっぱい有難う。

それから、韓国ブルーグラス「カントリーゴンバン」のJangくん。僕にギターもバンジョーも貸してくれて本当に有難う。